ファイナンス 2019年3月号 Vol.54 No.12
58/80

免許を必要とするBOT(ビルド・オペレート・トランスファー)事業の提案・施設運営への外資参入の自由化、(イ)薬剤師、林業、高等教育の教師への外国人就労の自由化、(ウ)フィリピン国内で資金供与される公共事業の建設・修繕契約、民間ラジオ通信網への外資参入の上限引上げが挙げられる。5.現状の課題と今後の見通し以上のような経済政策を行ってきたドゥテルテ政権が、その中長期的な目標を達成する上で、政権後半に取り組むべき課題について整理したい。(1) 税制改革の早期決着と明確な産業政策の策定まず重要となるのが、現在、議会で議論されている税制改革の早期決着である。特に、法人所得税と投資インセンティブに係るパッケージ2は、今後の海外直接投資の動向に大きな影響を与えることとなるが、そもそも法律が制定されず、将来の見通しが立たない状況においては、多くの企業が新規の大規模な投資を控える可能性が高く、フィリピンにとってはその機会を失うことにつながりかねない。また、パッケージ2では、投資インセンティブの合理化に併せて、政府が戦略的投資優先計画(Strategic Investment Priority Plan:SIPP)を策定することとされており、新たなインセンティブはSIPPで指定された産業に付与されることとなる。フィリピンでは、長年に亘り、製造業、特に中小零細企業の育成が課題となっており、日系企業の進出に当たってもサプライチェーンが不十分との指摘を受けることが多いため*17、SIPPの中で明確な産業政策を提示し、政府として産業の育成に力を入れていく必要がある。(2)更なるビジネス環境の改善「Ease of Doing Business法」について、法律の趣旨は評価できるものの、2019年2月時点で施行規則等が制定されていないため、具体的な内容については明確になっておらず、早急に対応していく必要がある。*17) 国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告 2018年度海外直接投資アンケート調査結果(第30回)」(2018)*18) 外資の小売業の場合、基本的には、払込資本金250万ドルと、一店舗当たり83万ドル以上の投資が必要となる。外資規制の緩和に関して、人口成長が著しく、経済が順調に成長しているフィリピンの国内需要に注目している外資企業も多く、そうした外資企業からは現行の資本金に係る規制*18の緩和を要望する声が大きい。この資本金の引下げについては、既に議会で法改正に関する議論が開始されているが、早期の成立に向けた取組が求められている。また、フィリピン国内でのインフラ需要が高まる中で、外資の建設業を更に活用していく必要が生じる可能性があり、公共事業への外資参入の上限引上げについても検討することが求められる。こうした取組を通じて、ビジネス環境の改善を図り、外資の誘致を通じて、国内の雇用を創出していくことが重要である。(3)農業セクターの生産性向上産業政策と並び、長年の課題となっているのが農業の生産性向上である。2018年10月時点で農業セクターには全労働者の24.1%が従事している一方、2018年の農業セクターの成長率は天候不順の影響等もあり0.8%と低調であった。農業従事者には低所得者層が多く、また、地方部ほど農業従事者の割合が高いため、ドゥテルテ政権が目指している貧困率の削減を達成するためには、農業セクターの生産性を高め、農業従事者の所得を増加させる必要がある。さらに、2018年は物価上昇率が5.2%となり、政府のインフレターゲットを超える結果となったが、その要因の一つが農作物の供給不足による価格の高騰であったと分析されている。農業セクターにおいては、非効率な物流システムや、輸入の数量制限に代表される過度な保護政策が存在しており、フィリピンが持続可能な成長を目指すに当たっては、農業従事者の所得に配慮しつつも、こうした部分を改革していかなければならない。6.おわりに筆者がマニラに赴任したのは2016年6月であり、まさにドゥテルテ政権とともに、マニラでの業務をスタートさせた。財務アタッシェとして、フィリピン財54 ファイナンス 2019 Mar.連 載 ■ 海外ウォッチャー

元のページ  ../index.html#58

このブックを見る