ファイナンス 2019年3月号 Vol.54 No.12
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の拡大*12、石油・自動車等に係る物品税の引上げ、砂糖入り飲料に係る課税の新設等がなされた。法案は2016年9月に議会に提出され、2017年12月に成立(共和国法第10963号)、2018年1月から施行されている。イ  パッケージ2(Tax Reform for Attracting Better and Higher Quality Opportunities:TRABAHO*13)次に取り組んだのが、法人所得税の引下げと投資インセンティブの合理化である。フィリピンの法人所得税はASEAN諸国の中で最も高い30%となっているため、これを段階的に引き下げることで競争力の確保を目指す一方、それにより生じる歳入の減少を補てんするため、経済特区に所在する企業に付与されている優遇税制等、既存の投資インセンティブを合理化することとしている。ドミンゲス大臣は、投資インセンティブの合理化を行う必要性について、(ア)多数の投資促進機関が存在し制度が複雑なものとなっていること*14、(イ)通常の法人所得税を納付している企業との間で大きな不公平が生じていること、(ウ)既存のインセンティブの効果が不明確であること*15を挙げている。法案は2018年1月に議会に提出され、既に下院では可決されたものの、上院では投資インセンティブの合理化が海外直接投資に与える影響を懸念する声もあり、2019年3月時点において未だ審議中の状況である。ウ パッケージ3過去20年間に亘り、固定資産税の算定根拠となる地方政府の土地価格評価が適切に行われておらず、市場価格との間に大きな乖離が生じていることから*16、この状況を是正し、適切な固定資産税の徴収が行えるようにすることを目指している。法案は2018年7月に議会に提出され、下院では可決されたものの、2019年3月時点において上院で審議中の状況である。エ パッケージ4金融資本に係る税制が複雑なものとなっていること*12) フィリピンの付加価値税の税率は12%であるが、付加価値税の適用除外を規定する特別法が84本も存在するなど、主要なASEAN諸国と比較して、課税の効率性が低い状況となっていた。*13) TRABAHOは、フィリピンのタガログ語で「仕事」を意味する。*14) フィリピンの法人所得税率は、主要なASEAN諸国の中でも最も高いにもかかわらず、法人所得税率の対GDP比が最も低いなど、課税の効率性が低い状況となっている。*15) フィリピン財務省は、2000年以降、海外直接投資の伸びが低調であり、輸出額の対GDP比が減少していることを捉え、現行の投資インセンティブの効果が不十分であると指摘している。*16) フィリピン財務省によると、マニラ首都圏のマカティ市にあるアヤラ通りの地価は、地方政府の評価額が4万ペソ/m2であるのに対して、実際の市場価格は少なくとも40万ペソ/m2であると言われている。から、それを簡素化するとともに、金融市場の発展につなげることを目指している。法案は2018年7月に議会に提出され、下院では可決されたものの、2019年3月時点において上院で審議中の状況である。(3)ビジネス環境の改善に向けた取組ドゥテルテ政権が掲げる中長期的な目標を達成するには、国内における安定した雇用の創出が不可欠であるため、ドゥテルテ政権は、国際競争力の強化とビジネス環境の改善を通じて外資の誘致を図り、国内における雇用の増加につなげていきたいと考えている。インフラの整備や法人所得税の引下げも、その一つであるが、ここではそれ以外のビジネス環境の改善に向けた取組について見ていきたい。ア  「Ease of Doing Business法」貿易産業省が中心となり、フィリピン国内におけるビジネスに関連する政府手続の簡素化・効率化し、競争力の強化、お役所仕事の改善、汚職の防止を進めるための「Ease of Doing Business法」案を議会に提出し、同法は2018年5月に成立した(共和国法第11032号)。同法では、主な内容として(ア)政府手続に要する期限の標準化、(イ)申請用紙の統一、(ウ)ワン・ストップ・ショップ(受付機関の一元化)、(エ)システムの電子化、(オ)ゼロ・コンタクト・ポリシー(政府職員による事前の接触禁止)、(カ)ビジネス・データバンクの創設を規定している。イ  外資規制の緩和(「第11次外国投資ネガティブリスト」)フィリピンでは、1991年外国投資法(共和国法第7042号)に基づく外国投資ネガティブリスト(外国資本に対する規制)が制定されており、概ね2年ごとに改定されている。2018年10月に、ドゥテルテ政権として初めての改定となる「第11次外国投資ネガティブリスト」(大統領令第 65 号)が発出され、同年11月から施行された。その主な変更としては、(ア)インターネットビジネス、一部の教育機関、公益事業 ファイナンス 2019 Mar.53海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連 載 ■ 海外ウォッチャー

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