ファイナンス 2019年3月号 Vol.54 No.12
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については、基本的に政府による財政支出又はODA事業で実施することとし、政府が主体的に案件の形成から事業の進捗管理まで行うこととした。イ 「Build Build Buid」チームの形成旗艦事業の進捗を適切に管理する上で重要となるのが、関係省庁間の連携となる。この点に関して、アキノ政権では主体的に全体を管理する役割を果たす閣僚が不在であったのに対して、ドゥテルテ政権においては、ドミンゲス大臣が、大統領からの信頼を盾に強烈なリーダーシップを発揮し、同大臣を中心とする「Build Build Buid」チーム*8を形成して、定期的にインフラ事業の進捗管理を行っている。具体的な例として、安倍総理の発案の下、2017年3月から開始されている「日フィリピン経済協力インフラ合同委員会」は、概ね四半期に一度の頻度で開催されているが、その全ての会合に「Build Build Buid」チームの全メンバーが出席し、閣僚が主体的に旗艦事業の進捗管理と課題解決について議論している。ウ インフラ向け予算の拡大と予算執行率の改善ディオクノ予算管理大臣は、アキノ政権下でのインフラ支出の対GDP比の平均が2.9%と低調であったことに加え、予算の未執行率が2014年に13.3%、2015年に12.8%と高かったことを痛烈に批判し、ドゥテルテ政権では、(ア)インフラ支出の対GDP比を2017年の5.4%から2022年には7.4%まで引き上げること、(イ)予算の執行率を大幅に引き上げることを目標として掲げている。同大臣は、インフラ支出を拡大するに当たり、世界的な低金利の状況を踏まえて、財政赤字対GDP比の上限を従来の2%から3%に引き上げ、政府の借入れ拡大による財源捻出を可能にした。さらに、予算の執行率を引き上げるために予算制度改革を行い、現行の「発生主義予算」から「現金主義予算」に変更することで、各省庁に年度内の執行を促進することを目指した結果、2017年には未執行率が2.9%まで低下した*9。*8) 「Build Build Buid」チームは、インフラ事業のファイナンスを担うドミンゲス財務大臣のほか、フィリピン全体の開発計画を担うペルニャNEDA長官、予算の策定・執行管理を担うベンジャミン・ディオクノ予算管理大臣、鉄道・空港・港湾等を所管するアーサー・ツガデ運輸大臣、道路・河川等を所管するマーク・ビリヤール公共事業道路大臣、クラーク等の基地跡地の開発を担うヴィヴェンシオ・ディゾン基地転換開発庁総裁の6閣僚から構成される。*9) ディオクノ予算管理大臣は、「Use it, or lose your job(予算を執行せよ、さもなくば職を失うぞ)」というドゥテルテ大統領の言葉を引用し、他の閣僚に対して、徹底した予算の執行管理を要請した。*10) これまでの政権は、政権発足後に、前政権が実施した事業の見直しを行うことが多かったが、ドゥテルテ政権の特徴は、アキノ政権が案件形成した事業を基本的に引き継いだことである。これにより、ドゥテルテ政権発足直後から事業を動かすことが可能となった。*11) 2015年のフィリピンにおける1世帯あたりの平均収入は26.7万ペソであり、1997年の12.3万ペソの2倍以上となっている。こうした取組を通じて、インフラ事業の案件形成や執行のスピードは飛躍的に改善され、ドゥテルテ政権の前半だけでも、国民の目に見える形で事業の進捗を示すことが出来た*10。(2)包括的税制改革プログラムドゥテルテ政権にとって、インフラ投資と並んで大きな課題は、長年に亘り放置されてきた税制をあるべきする姿に整えることであった。基幹税を含め、多くの税目を改正する必要がある壮大な計画であり、この包括的税制改革プログラムを実行するに当たり、ドミンゲス大臣は、税目ごとにパッケージを作り、段階的に議論を進めていく方針を執った。ここでは主なパッケージについて確認したい。〈包括的税制改革プログラム〉パッケージ税   目パッケージ1A個人所得税、付加価値税、物品税、その他パッケージ1Bタックス・アムネスティ、銀行秘密法の緩和、情報の自動交換パッケージ1C自動車利用者税パッケージ2法人所得税、インセンティブパッケージ2+タバコ・酒・鉱物に係る税パッケージ3土地評価、固定資産税パッケージ4資本収入・金融に係る税(出典)フィリピン財務省の資料から筆者作成ア  パッケージ1A(Tax Reform for Acceleration and Inclusion:TRAIN)最初に着手したのは、ドゥテルテ政権が最重要と考える個人所得税率の引下げである。過去20年間に亘り、概ね年率4-6%の経済成長と2-4%の物価上昇を遂げてきたフィリピンにおいて、その間、個人所得税の税率ブランケットが改正されずに放置されてきたことにより、低所得者層に対しても高い税率が適用される状態となっていた*11。こうした状況を踏まえ、税率ブランケットを現在の所得水準に合わせて調整するとともに、年間の課税所得が25万ペソ(約52万円)未満の人々については免税とすることとした。これらの措置により生じる歳入の減少を補てんするとともに、インフラ投資や教育・社会保障関連支出のための財源を捻出するため、付加価値税の課税ベース52 ファイナンス 2019 Mar.連 載 ■ 海外ウォッチャー

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