ファイナンス 2019年3月号 Vol.54 No.12
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加させるなど、インフラの整備に向けた取組を行ってきたが、案件形成に時間が掛かり、予算の執行率も低調であったため、事業の進捗は遅く、実際に着工まで辿りつけた事業の数は限定的であり、国民の目に見える具体的な成果にはつながっていなかった。また、税制に関しては、フィデル・ラモス政権以降、過去20年間行われていなかった個人所得税の税率改定を含む包括的な税制改革を実施し、低所得者層に対する減税を行うとともに、富裕層への増税等を行ってインフラ投資や教育・社会保障関連施策の財源を捻出するというものである。これに加え、国内の格差を是正するための地方開発、社会保障の充実も掲げられている。〈主要社会経済政策10項目〉1.財政・金融・通商政策を含む現行のマクロ経済政策の継続・維持。2.インフレ率に連動した先進的な税制改革と効果的な徴税制度の導入。3.競争力強化とビジネス環境の改善。4.PPPに中心的な役割を持たせつつ、インフラ支出を対GDP比5%まで拡大。5.農業と地方企業の生産性向上及び地方の観光振興に向け、地方のバリューチェーン開発を推進。6.投資を喚起するための土地所有権の安定性を確保、土地管理と関係省庁に係る問題の改善。7.保健や教育制度を含む人的資本の開発に投資、技術や研修のマッチング。8.イノベーションや創造的な能力を高めるための科学・技術・創造的な技巧の推進。9.条件付現金給付制度を含む社会保障制度の改善。10.リプロダクティブヘルス法の実施の強化。(出典)フィリピン財務省の資料から筆者作成(3)中長期的な数値目標の設定財務大臣に就任したドミンゲス氏は、国家経済開発庁(NEDA)長官に就任したアーネスト・ペルニャ氏とともに、ドゥテルテ政権期間中(2016~2022年)の開発方針を規定する「フィリピン開発計画」を策定するとともに、これまでの政権にはない長期的な計画として2040年までの開発ビジョンを規定する「AmBisyon Natin 2040」を打ち出した。これらの中で、中長期の具体的な数値目標として、2022年までに貧困率を21.6%から13-15%まで改善し、600万人の国民を貧困から救うこと、一人当たりGNIを3,500ドルから5,000ドルまで引き上げ、高位中所得国入りを果たすこととし、2040年までに貧困率を大幅に減少させること、一人当たりGNIを少なくとも11,000ドルまで引き上げ、高所得国入りを目指すこととしている。4.具体的な施策ドゥテルテ政権前半で実施されてきた経済政策のうち、特に着目すべきものについて見ていきたい。(1)「Build Build Buid」プログラムフィリピン国民にとって、インフラ整備は喫緊の課題であった。例えば、東京23区とほぼ同じ620km2のマニラ首都圏には、2015年時点で1,287万人が居住している一方で、高架鉄道3路線の総延長は50kmにとどまるなど、交通渋滞が深刻化しており、JICAの試算によると、交通渋滞による社会的損失は2017年で1日あたり35億ペソ(2019年1月時点のレートで約73億円)に達すると言われている。さらに、フィリピンは7,000を超える島から成り立つ島嶼国家であり、国内・海外とのアクセスを改善し、ヒト・モノの流れを効率化することが包摂的な経済発展を達成する上で不可欠である。こうした課題に対処し、大規模なインフラ整備を進めるべく打ち出されたのが「Build Build Buid」プログラムであり、そのポイントは以下のとおりである。ア  政府による財政支出・ODA事業を中心とする開発アキノ政権においてはインフラ整備にPPPの積極的な活用を図ったが、結果として、案件の形成に時間を要し、実際に着工まで辿りつけた事業の数は限定的なものとなっていた。そこで、ドミンゲス大臣は、PPPについても一定の意義を認めつつ、政府が選定する75の最重要事業(通称、「旗艦事業(Flagship project)」)早急な対応が必要となっているマニラ首都圏の幹線道路(EDSA)の混雑の状況(筆者撮影) ファイナンス 2019 Mar.51海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連 載 ■ 海外ウォッチャー

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