ファイナンス 2019年3月号 Vol.54 No.12
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1.はじめに2016年6月にロドリゴ・ドゥテルテ氏が大統領に就任してから間もなく3年が経とうとしており、本年5月には中間選挙(上院・下院・地方自治体)を迎えることとなる。こうした節目の時期を捉えて、本稿においては、経済政策という観点から、ドゥテルテ政権の前半を概観していきたい。2.ドゥテルテ政権の成立とその背景まずは、ドゥテルテ氏が大統領選挙に臨んだ当時のフィリピン国内の状況について見ていきたい。(1)アキノ政権の下での経済成長第2次世界大戦後、産業政策の失敗や政情の不安定から経済の成長が低迷し、「アジアの病人」とまで呼ばれたフィリピンは、2010年に就任したベニグノ・アキノ前大統領の下で毎年概ね6%台の経済成長率を達成し、東南アジアにおいて最も急速に発展する国の一つとなっていた。政情を安定させつつ、自由主義的な経済政策を進めて、経済を発展させたアキノ政権については、多くの国民が支持をしているように見えた。(2)ドゥテルテ氏の台頭こうした中で2016年5月に行われた大統領選挙においては、アキノ前大統領が後継に指名したマニュエル・ロハス元内務自治大臣でも、アキノ政権の経済政策の継続を明示的に表明していたグレース・ポー上院議員でもなく、ミンダナオにあるダバオ市で長年に亘り市*1) 本稿の内容は全て筆者の見解であり、在フィリピン日本国大使館の公式見解を示すものではない。*2) フィリピンの大統領選挙は、決戦投票なしの直接選挙で行われている。主な候補者の得票率は、ドゥテルテ氏が39%、ロハス氏が23%、ポー氏が21%。*3) 労働力人口に占める、就業者であっても十分な労働時間に満たず追加の仕事を求めている者の割合。長を務めていたドゥテルテ氏が最も多くの票を集める結果となった。この背景には、ロハス氏とポー氏がアキノ前大統領の支持者の票を奪いあったという要因もある*2が、それに加えて、フィリピンが高い経済成長を続ける中で、低所得者層の多くは自分たちの生活が改善していないと感じており、そうした人々に対して、ドゥテルテ氏が彼らの目線に立った効果的な宣伝を行ったことが、選挙戦終盤で大きな流れを生み出し、最終的な同氏の勝利につながったものと思われる。(3)消えない「麻薬・犯罪・汚職」ドゥテルテ氏が低所得者層の支持を集めた選挙公約の一つが、いまや同氏の代名詞ともなっている「麻薬・犯罪・汚職」の撲滅である。アキノ前大統領も、汚職の撲滅を掲げて改善に向けて取り組み、一定の成果を挙げたと評価されているものの、それは中央政府の幹部に限定されており、一般の人々が接する末端の職員までは、なかなか浸透していなかった。さらに、低所得者層の多くは、自分たちの身の回りにおける麻薬、犯罪等の治安面での不安を抱えており、それに対して、ドゥテルテ氏が市長としてダバオ市の治安を改善させた実績を示しつつ、過激な発言を交えた演説を行い、人々の関心を惹いた。(4)取り残された低所得者層もう一つの重要な課題が、低所得者層の生活水準の改善である。アキノ政権の下でフィリピンが毎年概ね6%台の経済成長を見せる中で、失業率は2010年の7.4%から2016年には5.5%まで改善したものの、未だに約237万人の失業者がおり、不完全就業率*3につFOREIGN WATCHER海外ウォッチャードゥテルテ政権前半の経済政策~フィリピン人のための改革~*1在フィリピン日本国大使館一等書記官 影山 昇 ファイナンス 2019 Mar.49連 載 ■ 海外ウォッチャー

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