ファイナンス 2019年3月号 Vol.54 No.12
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評者渡部 晶山崎 史郎・小黒 一正 編著どうする地方創生 ~2020年からの新スキーム日経プレミアシリーズ 2018年12月 定価850円(税抜)前内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局地方創生総括官の山崎史郎氏や小黒一正法政大学経済学部教授らがメンバーとなり、「地方創生の次世代モデルを探る」というコンセプトの下、「リージョナル・マネジメント」(Regional Management)に関する研究会を2016年12月1日から計15回開催してきた。本書は、その成果等をとりまとめたものとして昨年12月に刊行された。RM研究会のプロデューサーは、鹿島グループの一翼を担う株式会社アバンアソシエイツ顧問の平泉信之氏である。平泉氏は、1984年に鹿島建設株式会社に入社後、様々な部門で勤務、財務総合政策研究所総括主任研究員などを経て、2009年から現職である。2012年より鹿島建設取締役、2015年より鹿島平和研究所会長である。研究会は、地方創生の3つの「壁」(「事業の優先順位の欠如」「人材の欠如」「組織の欠如」)のうち、大きな鍵を握るのが「組織の欠如」を埋め合わせる「官民協働」のマネジメント組織ではないかという仮説の妥当性やそのヒントを探るため、長い時間をかけて研究を重ねてきた。本書の構成は、序章 地方創生の3つの「壁」を越える、第1章 訪れたい、住み続けたい「まち」にする、第2章 新たな価値は「ひと」から生まれる、第3章 魅力ある「しごと」とは、何か、第4章 誰が地域の「リーダー」になるのか、第5章 地方創生を現実にする「仕組み」、終章 鍵を握る「官民協働」の仕組み、となっている。序章では、山崎氏が、地方創生の「壁」を紹介し、アプローチとして、「まち」が有する魅力が「ひと」を呼び込み、その「ひと」が集まって、「しごと」を起こす、というまち起点のアプローチを、「次世代モデル」として提唱する。第1章では、山﨑氏、平泉氏、保井美樹法政大学現代福祉学部教授、森正史アバンアソシエイツ計画本部長が、「ひと」を惹きつけ、定住人口や関係人口を増やせる地域を創るにはどうすればよいかを議論する。保井教授は、車中心から人を中心に考えたまちづくりの重要性を強調する。第2章は、山﨑氏、小黒氏、平泉氏、大島一博・厚生労働省老健局長が、地方創生や社会保障において取り組むべき課題について議論する。日本企業の働き方が、特に女性の就労行動、子育て行動にすべて影響してきており、これを変えていく必要性については参加者の意見は一致する。職住近接や、地域が子育てを支援する仕組みの可能性が論じられる。第3章では、山﨑氏、平泉氏、朝比奈一郎青山社中株式会社筆頭代表、吉竹弘行千葉商科大学人間社会学部教授が、地域のしごと創出を成功に導くための課題などを議論する。市場としてのB to Cをねらっていくというあたりに今後の地方のしごとづくりのやり方をみる。農林水産業やエネルギー事業の高い可能性が指摘される。第4章は、山﨑氏、朝比奈氏、吉竹氏が、地方創生を担う人材の還流と育成の進め方を議論する。事業を動かせる民間人材を地方に還流させるシステムを公的な関与の下に構築することや、自治体の人事部門が、地域行政に必要な人材の採用・育成をきちんと行うことが必要だという。第5章は、山﨑氏、小黒氏、平泉氏、辻琢也一橋大学大学院法学研究科教授が、地方創生を進める上での「コンセンサス形成」の問題や、各種事業を遂行する「官民協働組織」のあり方を議論する。地方自治に精通した辻氏が、「現状維持」を求める合理的な動機を説得的に説く。人口20万、30万の都市こそ、今後人口減少が深刻化するとの指摘が目を引く。小黒氏は、福岡県みやま市の事例(みやまスマートエネルギー株式会社)から、制約の多い税財源に頼らない仕組みの大いなる可能性を取り上げる。また、小黒氏は、地方創生の起爆剤として「地方庁」構想や「公設寄付市場(仮称)」の創設を本章のコラムで解説する。前者は中央省庁が担う政治的な調整コストの一部を分散化する仕組みとして、後者はふるさと納税の抜本改革案としての提案である。終章で、総務省が2018年4月に発表した「自治体戦略2040構想研究会 第一次報告」が冒頭で紹介されている。「人口増加モデルの総決算を行い、人口減少時代に合った新しい社会経済モデルを検討する必要がある」と。ただし、この問題の解決策については、いまだ具体的な解が示されているわけではない。全国の志をもった人びとがこの困難な課題の解決に立ち上がり、官民協働のマネジメント組織を現行の諸制約の中でも知恵を出してやってみる。本書がそのきっかけになることを大いに期待したい。ぜひ一読をお勧めする。48 ファイナンス 2019 Mar.ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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