ファイナンス 2019年2月号 Vol.54 No.11
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中華そば銀ぎん座ざ 八はちごう五【東銀座】素材を幾重にも折り重ねたタレ要らずの1杯は、 新店離れしたレベルの高さ!先月号で、2018年における霞ヶ関周りのラーメンシーンについて言及させていただいた。簡単におさらいすれば「同年上半期は新橋・西新橋エリアが盛り上がり、下半期からは銀座・東銀座エリアが活況を呈している」「そんな中、12月に『中華そば銀座八五』という名の実力店が誕生した」といった趣旨のことを述べたが、今回は、この『銀座八五』を紹介させていただくこととする。同店が産声を上げたのは、昨年12月8日。水道橋の人気店『中華そば勝本』のサードブランド。店舗の場所は、各線東銀座駅から歩くこと約5分。銀座中心部の喧噪から遠く離れた路地にひっそりと佇む。霞が関に勤務する方々であれば、ランチタイムをフル活用すれば狙うことが可能なロケーションだろう。『八五』という特徴的な屋号は、「八」の字を名峰富士に見立て「五」合目から山頂を目指すとの意味合いを込めたもの。松村店主は言う。「今の自分はまだ未熟。この場所で真摯に腕を磨き、いつかは作り手としての頂に辿り着ければ嬉しいです」。現在、同店が提供するのは「中華そば」とそのバリエーションのみ。「誰もが飲み干したくなるスープを創ること。この『中華そば』を開発するに当たり、この点を譲れない大前提としました」。自らが設定した高いハードルを乗り越えるため、培った知識と経験を総動員して開発に取り組んだという。その結果、栄えあるスープ素材として、鴨・名古屋コーチン・生ハムを始めとした動物系素材と、昆布・干し椎茸・ドライトマト・イタヤガイ等の山海の恵みの数々を採用。「個々の素材の特長・うま味成分から、複数の素材が一体化する時に生じる風味に到るまで、徹底的に研究・分析しました。数え切れないほどの試作を重ねた末に完成したのが、同店のスープです」。そんな店主の試行錯誤が尋常なものでないことは、スープを少し舌上で転がすだけで実感できるだろう。身体中の細胞が活性化し、鳥肌が立つのを抑えられなくなるのだ。上質で明晰なうま味は、レンゲでスープをすくう手間さえ惜しまれるほど魅惑的だが、更に特筆すべき事項がある。実はこのスープ、タレが使われていないのだ。「一般的にタレはスープの味の『要』で、それは否定しようがない事実なのですが、完成した『中華そば』のスープを試飲した瞬間、確信できました。このスープにとっては、タレすら蛇足だと」。タレの代役を果たすのは、素材のひとつである生ハムから沁み出した塩味。このギミックが、息を飲むほどまろやかな食味の構築に大いに寄与している。もちろん、スープのパートナーとなる麺にも一切の妥協はない。都内の名門製麺所『浅草開化楼』と相談を重ね、麺長・形状・加水率等に変化を加えた麺を幾種類も試作。その中から「これが最適解」と選び抜いた麺は、自身は敢えて一歩後ろに退きながら、ピタリとスープに寄り添う渾身の傑作。気付けば、六席あるカウンターに置かれた丼が全て空っぽになっていた。一滴のスープさえ、残さず胃袋に収め切ってしまいたい。居合わせた食べ手の気持ちが一と化した瞬間だ。(店舗情報)住所:中央区銀座3-14-2 第一はなぶさビル1F電話番号:03-6228-4141営業時間: 11:00~15:00、17:00~21:00 (スープ終了次第閉店)定休日:水曜、第2・4木曜プロフィールラーメン探究家 かずあっきぃ(田中 一明)1972年11月生まれ。学生時代に出逢った1杯のラーメンに感銘を受け、1995年より本格的な食べ歩きに着手。「ラーメンの魅力の探究」をライフワークとし、年間700杯以上のラーメンをコンスタントに実食。総食杯数は12,000杯を超える。日本全国のラーメン事情に通暁し、各種媒体にラーメン情報を精力的に発信。味玉中華そば ファイナンス 2019 Feb.63かずあっきぃのラーメン探訪記連 載 ■ かずあっきぃのラーメン探訪記

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