ファイナンス 2019年2月号 Vol.54 No.11
66/80

わが愛すべき80年代映画論(第十七回)文章:かつおコナン・ザ・グレート<特別編>DVD発売中¥1,419+税20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン監督:ジョン・ミリアス主演:アーノルド・シュワルツェネッガーキング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2<特別編>DVD発売中¥1,419+税20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン監督:ジョン・ミリアス主演:アーノルド・シュワルツェネッガー『コナン・ザ・グレート』(原題:Conan the Barbarian)1982年『キング・オブ・デストロイヤー』(原題:Conan the Destroyer)1984年トレッドミル(treadmill)という運動用具がある。いわゆるルームランナーがどうしてこのような名前で呼ばれているのか。その語源は、1865年のイギリス監獄法で定められた囚人への罰である「踏み車」の製粉機であると言われている。トレッドミルをどれだけ使っても有酸素運動であり、痩せることはあれ筋肉が付くことはないが、幼少期、家族を殺され、奴隷となったコナンほか少年数十人が連れてこられた製粉機は違っていた。巨大な柱を囲み、全員でそこから垂直に突き出た棒を押して柱を回す。そんな原始的な労働を毎日毎日やらされている少年たち。次第に、一人倒れ、また一人倒れ、数十年後、たった一人生き残り、たった一人で巨大な製粉機を回す元少年、それこそ、筋骨隆々のアーノルド・シュワルツェネッガー*1に成長したコナンである。製粉機を押すだけの運動で、あんなにカットのついた大胸筋が付くのかよ、という疑問も、今でこそ雑誌「Tarzan」の読者でもある賢明な官僚諸兄なら当然抱くだろうが、「スポーツクラブ」といえばレッグウォーマーを付けたシャレおつお姉さんたちがエアロビを踊っているというイメージしかなかった当時、そんな疑問を持つ観客は皆無であり、ただただその圧倒的なボディに驚愕したものである。そんなコナンが、かつて母を殺したカルト教団のボス*2を倒すまでの第一作、そして姫を誘拐した魔法使いや悪の化身ダゴスと闘う第二作。印象的な冒頭のシーンを除けば、両方まとめてストーリーには特に語ることがないことは、すでにこれだけの字数をオープニングシーンに割いていることからもお分かり頂けると思う。ただ、どちらかといえば第二作である。着ぐるみキャスト感満載とはいえ怪物や悪の化身とシュワルツェネッガーとの激しいファイトが観られるし、なんといっても*1) DVD表紙画像参照*2) これを演じたのは若き日のジェームズ・アール・ジョーンズ。そう。ダース・ベイダーの声であり、『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)では黒人作家テレンス・マンを演じた俳優である。*3) ロジャー・ムーアがジェームズ・ボンドを演じた最後の作品。途中で仲間になる女戦士ズーラを演じたグレイス・ジョーンズの圧巻の雄姿がある。漆黒の肌にモヒカンヘアー、そして細身ながら筋肉質の身体。翌年の『007美しき獲物たち』*3(1985年)では、「残念なボンド」の代表格ロジャー・ムーアを頭上高く持ち上げ、ムーアの俳優としての存在感ごと彼方に放り投げたことでも記憶に新しい。その女戦士以外の旅の仲間といえば、お姫様に魔法使い、盗賊、弓矢の達人。そう、どこかで見たことがあるかもしれないお仲間構成だが、『ロード・オブ・ザ・リング』や「ドラゴンクエスト」などに象徴される、中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界観も、元をたどれば1930年代にロバート・E・ハワードが書いた小説「英雄コナン」シリーズ、つまり本作の原作が最初である。にもかかわらず、2作合計で230分にわたり上半身裸であますところなく見せびらかすオーストリア人の肉体の前に、もはや「あ、指輪物語風のシュワちゃんのアクション映画でしょ?」と、歴史を上書きされてしまうのは本作の不幸であり、さらに、センスのない日本の配給会社が、売れない外国人プロレスラーのようなダサい邦題を付けずに、原題を直訳した『野蛮人コナン』というインパクトのまま行っていれば、今日、幼児化したヒョロガリ眼鏡の少年が、大したアクションも筋肉もなしに事件を解決するぬるい名探偵に名前が上書きされることもなかったであろう。どれだけの歴史と伝統の裏付けがあっても、登場人物のインパクトが強すぎたり、逆に打ち出しのインパクトが弱すぎたりすることで、歴史も名称も簡単に上書きされてしまうという現実を、伝統ある職場で働く我々に教えてくれるところこそ、本作の本当の魅力であることは、もはや言うまでもない。62 ファイナンス 2019 Feb.わが愛すべき80年代映画論連 載 ■ わが愛すべき80年代映画論

元のページ  ../index.html#66

このブックを見る