ファイナンス 2019年2月号 Vol.54 No.11
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【(3)当座預金への付利金利*6】超過準備がある限り、売りオペによって市場から資金を吸収しても、資金の超過供給を解消できず、オペによって金利を誘導できない。よって、一般に中央銀行の当座預金に対する付利金利が利用されている。例えば、日本銀行においては、補完当座預金制度適用金利であり、ECBにおいては、預金ファシリティ金利である。預金取扱機関からみると、付利金利を下回る金利で短期金融市場に資金を放出するインセンティブが働かない*7ため、付利金利が短期金融市場における下限として機能することが期待される。以上から、一般に中央銀行が政策金利を誘導したい場合、(2)のディスカウントレートと(3)の付利金利で挟めばよいことになる。ところが、Fedの場合、図3を見てみると、付利金利を下回る金利での取引が成立している。これは、政府系金融機関(以下GSE等)*8の存在が関係している。GSE等は付利金利の適応を受けられないため、付利金利以下の金利水準であっても短期金融市場に資金を放出し(付利金利より低い)利回りを得る。以上から、FF市場において、現状では付利金利は短期金利の下限として機能していないと考えられる。付利制度の適用を受けることが可能な預金取扱機関にとっては、仮に付利金利を下回る金利水準で資金調達ができた場合、その資金を単に当座預金に滞留させ付利の適用を受けることにより、その金利差分の利益*6) Fedでは、IORR(The interest rate on required reserves:所要準備付利金利)、IOER(The interest rate on excess reserves:超過準備付利金利)と呼ばれる。*7) 付利金利を下回る金利で短期金融市場に資金を放出するよりも、当座預金に滞留させた方が高利回りのため。*8) ファニーメイやフレディマックなど。*9) FRBが金融機関から、米国債を担保に資金を借り入れて利息を支払う制度。*10) 当該金利を下回る金利で市場に資金を放出するインセンティブが働かないため、リバースレポ金利がFF市場における実質的な下限として機能することが期待される。を得ることが可能となる。逆からいうと、あくまで預金取扱機関は付利金利を下回る金利水準で資金調達ができるために、資金を調達しているのであり、付利金利を上回る金利で預金取扱機関が資金調達を行うインセンティブが働かない。以上から本来は下限として機能すると期待される付利金利が事実上、短期金利の上限として機能していると考えられる。なお、Fedにおいて、この付利金利はFRBが決定している。【(4)リバースレポ金利】政策金利のコントロールのためには新たな下限を設定する必要があり、Fedは付利の適用外であるGSE等でも利用可能なリバースレポ*9(図4)を導入しており*10、これに適用されるのがリバースレポ金利である。このリバースレポ金利は、FOMCにおいて決定されている。以上から、現在のところ、政策金利を誘導する場合、(3)の付利金利と(4)のリバースレポ金利で挟み込めばよいことになる。ところで、政策金利であるFF金利の実効レートをみると、このところ上限としての機能が期待される付利金利にFF金利の実効レートが近づいてきていた(図4)。よって、2018年6月と12月の政策金利の誘導目標レンジの引上げ(いずれも0.25%)の際、付利金利を0.20%の引上げに留めることで、政策金利がより誘導目標レンジの中央に位置するよう誘導したと考えられる。(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。【図3】 (2)ディスカウントレート、 (3) 付利金利、 政策金利(FF実効レート)0.000.501.001.502.002.503.003.5020152016201720182019(2)ディスカウントレート(3)付利金利政策金利(FF実効レート)(出所)Bloomberg(%)(2)(3)【図4】 (3)付利金利、 (4) リバースレポ金利、 政策金利(FF実効レート)0.000.501.001.502.002.503.003.5020152016201720182019(出所)Bloomberg(%)(4)(3)付利金利政策金利(FF実効レート)(4)リバースレポ金利(3)政策金利の誘導目標レンジは0.25%引上げた(図2)一方、(3)の付利金利は0.20%の引上げに留めた(2018年6月、12月)。 ファイナンス 2019 Feb.61コラム 海外経済の潮流 119連 載 ■ 海外経済の潮流

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