ファイナンス 2019年2月号 Vol.54 No.11
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3.1. 債務持続性のリスク格付けLIC DSFでは、予測期間において債務負担指標が債務負担閾値と比較してどのような道筋を辿るかによって当該国の債務持続性を低リスク、中リスク、高リスク、In debt distressの4つに判別している。債務持続性の4つの評価は、通常、以下の基準に従って判別される。・低リスク:ベースライン及びストレステストシナリオ両方において、一般的に、全ての債務負担指標が閾値を下回る・中リスク:債務負担指標がベースラインシナリオにおいて債務負担閾値を下回るが、ストレステストシナリオにおいて、対外ショックやマクロ経済政策の突然の変更によって閾値を上回る・高リスク:ベースラインシナリオにおいて、債務負担指標が閾値を上回る・In debt distress:当該国が既に債務返済に支障をきたしている状態。例えば、債務未払い、現在進行形あるいは差し迫った債務再編、高い確率でdebt distressの兆候がみられること表1にある通り、債務負担指標及び債務負担閾値は、当該国の債務負担能力(Weak, Medium, Strong)に応じて各債務指標をGDP比、輸出比、歳入比でみたものとなっている*17。債務負担能力が高いと判別された国では高い閾値が設定され、比較的低いと判別された国では低い閾値が設定される。つまり、閾値が高く設定されている債務負担能力の高い国は、同能力が低*17) 債務負担能力と債務負担閾値の設定については、次節「3.2. DSFにおける債務負担能力及び債務負担閾値の設定」を参照されたい。*18) Historical Scenarioは、当該国の債務持続性の判別に直接使われるわけではないが、ベースラインシナリオ及びストレステストの結果と比較する上で参考になる。い国と比べて、債務額及び債務返済額の累積が債務持続性の悪化に直結しにくいという設定になっている。単純化のために、対外債務額GDP比(PV PPG)及び対外債務返済額輸出比(PPG)2つの債務負担指標に限った図1のDSA結果例をみてみると、ベースラインシナリオでは閾値を超えていないものの、ストレステスト(Most Extreme Shock)では2つの債務負担指標はともに閾値を超えている。つまり、上述の債務持続性の評価基準に従うと、債務返済に支障をきたしていなければ、当該国の債務持続性は「中リスク」に分類される。債務負担指標が閾値を上回る程大きくなるのは、定義通りではあるが、債務負担指標の分子が大きくなる場合(対外債務額、対外債務返済額、公的債務総額の増加)と分母が小さくなる(GDP、輸出、歳入の減少)2つの場合となる。よって、債務持続性を高めるには分母となるGDP・輸出・歳入の増加に繋がる経済政策を進めるとともに、分子となる対外債務額、対表1:債務負担指標及び債務負担閾値債務負担 能力対外債務額(PV PPG)対外債務返済額(PPG)公的債務 総額(PV)GDP比輸出比輸出比歳入比GDP比Weak30140101435Medium40180151855Strong55240212370出典:IMF(2018a)備考:LIC DSFにおける債務持続性のリスク格付けでは、対外債務及び公的債務を用いている。また、発生時期が異なる債務の価値を比較可能にするため、現在価値(Present Values(PV))に換算する。PVは、割引率(利子率)を用いて、将来に発生する価値を現在の価値に割り戻したもので、DSFにおける対外債務の現在価値算出には、5%の割引率が用いられる。PPGは、Public and Publicly Guaranteed Debtの略称。図1:LIC DSA結果例*18出典:筆者作成対外債務額GDP比(PV PPG) 7025018004002017202220272032203720172022202720322037BaselineHistorical ScenarioMost Extreme ShockThreshold対外債務返済額輸出比(PPG) ファイナンス 2019 Feb.53シリーズ 日本経済を考える 86連 載 ■ 日本経済を考える

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