ファイナンス 2019年2月号 Vol.54 No.11
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IMFが主導した構造調整について概観する。第3節では、IMF及び世銀によるソブリン*5の債務持続性分析(DSA)の枠組みとなるDebt Sustainability Framework (DSF)の概要を説明する。特に、開発の文脈でDSFに触れることから、LICsを対象としたDSAに焦点を当てる。2.債務問題と開発との関わり債務問題は、学問分野で言えば、一見、国際金融論や財政学の範疇であるが、多くの開発途上国が債務危機に陥った1970年代末以降、同危機の対応のために世銀及びIMFが構造調整融資と構造調整ファシリティ(両者をあわせて構造調整プログラムと呼ぶ)をはじめたことを契機として、開発(経済学)においても重要な課題となった(黒崎,2018)。1970年にGDP比20%を若干超える程度だった最貧国の対外公的債務は、1994年までにGDP比140%程度まで膨れ上がり、その利払い費も、1978~1988年の期間で2.3億ドルから13憶ドルに拡大した(Hurley et al., 2018, p3)。構造調整プログラムは、1979年の第2次石油危機に伴う高金利とドル高などをきっかけとした開発途上国の*5) 主権者という意味。ソブリン信用力といった場合、一般的に国家に対する信用力を意味する。*6) 例えば、メキシコなどの中南米諸国では、原油価格高騰時に借入れたドル建て変動金利の債務がその後のドル高・高金利により膨大な額にのぼり、債務不履行となった。累積債務問題*6が深刻化する中、国際収支支援のために導入された条件付きの融資として開始された。その条件とは、市場原理を重視するもので、超過需要削減のための財政・金融措置及び為替レートの実勢に応じた改訂に加えて、多くの開発途上国の土台となっていた統制主義・計画主義の廃止と市場経済化、貿易自由化、国有企業民営化などにあった(石川, 2002;Easterly, 2005)。しかし、当初の期待に反して、構造調整はその導入国の改革成否に対して影響を与えなかった(Dollar and Svensson, 2000;Easterly, 2005)という見方や、一部の上位中所得国を除いて成功せず、特に、サブサハラ・アフリカ諸国では軒並み失敗だった(石川, 2002)という見方など、批判的な評価が多くみられる。Dollar and Svensson (2000)は、Burnside and Dollar (1997)の分析結果を引用しつつ、財政・金融・貿易分野といった政策環境が不良な国に対する構造調整に付随した融資は機会費用を含むコストが高かった、と当時の開発援助政策における予算配分の在り方についても言及している。構造改革の重要性は多くの実務家ならびに経済学者が同意するところではあるが、市場原理を特に重視した構造調Box 1:一帯一路による融資対象国とその債務持続性独立した無所属、非営利シンクタンクであるCenter for Global DevelopmentのPolicy Paperに2018年3月に掲載されたHurley et al.(2018)は、一帯一路による融資対象国とその債務持続性について分析している。その中で、一帯一路の対象となる国は、中国を含めた以下68か国におよび、これらの国の経済産出高(economic output)は25兆ドル程度に上るとしている。その内訳は、大国から小国、一次産品依存国から産業が多角化している国まで様々である。・東・東南アジア(14か国):ブルネイ、中国、インドネシア、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、カンボジア、ラオス、フィリピン、シンガポール、韓国、タイ、東ティモール、ベトナム・中央・南アジア(13か国):アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、インド、カザフスタン、キルギスタン、モルジブ、ネパール、パキスタン、スリランカ、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン・中東・アフリカ(17か国):バーレーン、ジブチ、エジプト、エチオピア、イラン、イラク、イスラエル、ヨルダン、ケニア、クウェイト、レバノン、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、アラブ首長国連邦、イエメン・欧州・ユーラシア大陸(24か国):アルバニア、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、ボスニアヘルツェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、チェコ、エストニア、ジョージア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マケドニア、モルドバ、モンテネグロ、ポーランド、ルーマニア、ロシア、セルビア、スロバキア、スロベニア、トルコ、ウクライナ上記の68か国のうち、Hurley et al.(2018, pp7-8)は、S&P、Moody’s、Fitchの格付主要3社によるソブリン格付とIMF・世銀によるDSAの結果などを総合的に判断して、一帯一路による追加融資により債務不履行リスクが高まると考えられる23か国を以下の通り挙げている。債務不履行リスクの蓋然性には注視が必要だが、本分類は一定の参考になるだろう。・東・東南アジア(3か国):カンボジア、モンゴル、ラオス・中央・南アジア(7か国):アフガニスタン、ブータン、キルギスタン、モルジブ、パキスタン、スリランカ、タジキスタン・中東・アフリカ(7か国):ジブチ、エジプト、エチオピア、イラク、ヨルダン、ケニア、レバノン・欧州・ユーラシア大陸(6か国):アルバニア、アルメニア、ベラルーシ、ボスニアヘルツェゴビナ、モンテネグロ、ウクライナ ファイナンス 2019 Feb.51シリーズ 日本経済を考える 86連 載 ■ 日本経済を考える

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