ファイナンス 2019年2月号 Vol.54 No.11
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html開発についての諸考察: IMF及び世界銀行による 低所得国向け債務持続性分析*1財務省財務総合政策研究所 研究官山田 昂弘シリーズ日本経済を考える861.はじめに「中国の一帯一路で、次に『債務ドミノ』が倒れるのは太平洋諸島かもしれない。」とThomson Reuters社のChristopher Beddor記者は2018年9月5日の同社コラム*2で警笛を鳴らした。同コラムでは、中国への債務返済に苦慮し、国有資産の差し押さえを懸念する南太平洋に位置するトンガ王国のポヒバ首相との会談内容が書かれている。債務と聞くと、ギリシャ債務危機に代表される国の債務から、学生ローンや消費者向け金融などの個人向け債務まで様々あるが、昨今の国際情勢において、各種報道で盛んに報じられているものに冒頭で触れた「一帯一路」に付随した債務問題がある。中国国務院は、一帯一路(英語表記で、Belt and Road Initiativeまたは、One Belt One Road Initiative)をアジア・欧州・アフリカ大陸ならびに隣接する海域の連結性を促進する巨大経済圏構想*3として位置づけており、道路、港湾、発電所などのインフラ投融資を通じた同経済圏ならびに中国経済の活性化を意図している。一帯一路では、インフラ融資受入れ国の債務負担能力を度外視した巨額融資に伴う債務の累積に加え、借金の返*1) 本稿は、ファイナンス平成30年12月号に執筆した山田(2018)の続編になる。本稿の執筆にあたって、大江賢造課長、林ひとみ主任研究官(財務総合政策研究所)、湯浅啓一郎氏(JICA)、宍戸誠氏、片岡亮典氏などから有益な助言や示唆をいただいた。ここに記して感謝の意を表する。また、本稿執筆の前提となる知識と技術は筆者が国際協力機構審査部信用力審査課エコノミスト在職中に得たものであり、ファイナンシャルプログラミング(Financial Programming (FP))及び債務持続性分析(Debt Sustainability Analysis (DSA))の講義を担当してくださった元IMF Western Hemisphere DepartmentディレクターのClaudio Loser氏、貴重な議論の機会を与えてくださった同課アドバイザーで当時世銀エコノミストだったMarcin J. Sasin氏、ならびに、同課員に感謝したい。本稿の内容及び意見は筆者の個人的な見解であり、筆者の所属する組織の見解を示すものではない。ありうべき誤りは筆者に帰す。*2) 詳細は、以下URLから閲覧可能(2019年1月31日確認時点)。なお、トンガ王国がどのような意図で債務返済に苦慮するまで中国から借入をしたのか、また、国内資産を担保にしたのかについては定かでない。https://jp.reuters.com/article/column-pacic-islands-china-idJPKCN1LK0TM*3) 詳細は、以下URLの中国国務院ウェブサイトから閲覧可能(2019年1月31日確認時点)。 http://english.gov.cn/archive/publications/2015/03/30/content_281475080249035.htm*4) スリランカと中国は、2017年12月、ハンバントタ港管理会社の85%の株式を99年間中国へ譲渡することで合意した(IMF, 2018b, p24)。済に国有資産が充当される事例も発生し、中国資金の借入国を中心に大きな懸念が顕在化している。例えば、中国への債務返済に窮したスリランカでは、中国からの借入で建設したハンバントタ港の権益が中国に譲渡され*4、軍事拠点として利用される懸念が隣国インドなどにおいて高まったことは記憶に新しい。スリランカはインド洋の要衝といわれ、ハンバントタ港が位置するスリランカの南端付近を多くの船やタンカーが通過する(荒井,2018)。世界のコンテナ輸送の半分が通過しているばかりでなく、全世界の石油関連製品の70%が沿岸地域を通過するインド洋(伊豆山・栗田,2017, p40)は、海上交通路防衛上で極めて重要な位置にある。本稿は、中国の一帯一路政策に関連して足元で注目を集めている債務問題を扱い、主に低所得国(Low Income Countries(LICs))を対象とした債務持続性の分析枠組みの概要を紹介する。LICsは、一般的に債務管理に関連する政策及び制度が比較的脆弱で、債務返済に支障をきたす傾向があることから、その信用リスク管理の重要性は高い。第2節では、債務問題と開発との関わりについて、多くの開発途上国が陥った1970年代末以降の債務危機とその対応として世界銀行(世銀)・50 ファイナンス 2019 Feb.連 載 ■ 日本経済を考える

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