ファイナンス 2019年2月号 Vol.54 No.11
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評者渡部 晶浅野 誠 著魅せる沖縄私の沖縄論高文研 2018年6月 定価2,300円(税抜)沖縄については、「基地問題」をはじめとしてかなりの数の本が毎年出版されている。その中で、昨年半ばに出版された本書は、著者の「沖縄」に対する深い知見と洞察を感じ、極めて強い読後感があった。様々な論者のことばを丁寧にあつめて紹介しつつ、自分の見解を慎重に述べるというスタイルで、「魅せる沖縄」を語る。著者の浅野誠氏は、岐阜県出身で、2003年まで、沖縄大学(1年半)、琉球大学(17年)、中京大学(13年)で専任大学教員を務めたのち、50代半ばで、中京大学(定年は70歳)を早期退職した。2004年9月に、愛知県から沖縄本島南部東海岸に位置する現南城市玉城字中山に、宮古島出身の伴侶と移住し自宅を構えた。移住後のくらしについては、「沖縄 田舎暮らし―自然・人々とつながる人生創造」(アクアコーラル企画 2007年)として取りまとめられている。2006年1月に全国放映されたテレビ番組「月10万円で暮らせる町・村」に夫婦で登場したという。研究分野は生活指導を中心とする教育学で、そこからスタートし、幅を広げた。2003年4月からはフリーの研究者として活動するほか、南城市観光振興委員会会長など南城市の行政活動にもかかわった。本書の帯には「『沖縄』とは、『沖縄らしさ』とはなんなのか。それはどこから来ているのか。沖縄に「魅せられる」人はなぜ多いのか、沖縄宮古人と結婚した著者の45年余の思索」とある。主な構成は、「第1章 沖縄とは」、「第2章 沖縄・沖縄的の歴史スケッチ」、「第3章 沖縄・沖縄的を見る目を再考する」、「第4章 多様な分野での沖縄・沖縄的」、「第5章 外部支配と沖縄・沖縄的 沖縄脱出と沖縄独自」、「第6章 沖縄・沖縄的の現在とこれから」となっている。なお、「沖縄的」とは、この本での著者の用語で、「沖縄らしさ」「沖縄っぽさ」「沖縄特有」などをまとめたものとして用いられている。第1章は、全体を展望した章である。沖縄的を強めようとする「沖縄独自」追求型、沖縄的を弱め、それから脱出しようとする「沖縄脱出」追求型、この両者のせめぎあいとからみあいが、歴史的にも現在の沖縄においても多様な面で展開しているという。また、これ以外の道として、沖縄に流入してきた多様なものをチャンプルー(混ぜ合わせ)にして「沖縄的」にしてきたものにも注目する。また、近時、単一の「沖縄アイデンティティ」から卒業しようとする人々の動きにも広く目を向ける。第2章では、1990年代半ば以降、著者が批判的に命名した「ストレーター・コース」(よい高校→よい大学→よい会社→出世して定年まで勤務、という流れ)が標準的な生き方として、沖縄で大きな影響を持っているとする。なお、この沖縄の教育の状況に関しては、本書に先立つ「沖縄おこし・人生おこしの教育へ」(アクアコーラル企画 2011年)でも警鐘を鳴らしていた。「全国○位」の沖縄の捉え方が、本土復帰前後から広まったという指摘も示唆深い。第3章は、「もともとの沖縄にあったもの」と決め込むことの危険性を実例で示し、「沖縄の伝統」といわれるものの生成の在り方・今後の変化を考察する。第4章では、軍事や学校教育で、「沖縄・沖縄的」が抑えられ、自然環境や生活文化で、それが発現していることを示す。第5章では、外部支配との対抗から生み出される、「沖縄・沖縄的」のせめぎあいを分析する。第6章では、「沖縄・沖縄的」のチャンプルー性・多様性をもって、創造的な活動が沖縄で行われていくことに期待を示す。沖縄については、二項対立的な割り切った言説が氾濫する中で、「沖縄は一筋縄ではいかない多様さをもっており、その多様さが豊かなものを生み出している。だから、その多様なものから意味あるものを発見し、さらにそこから新たなものを創造することは重要だろう」(あとがき)という著者の視点はとても新鮮だ。ぜひ、本書をひもといて、この多様性を共通認識としていただければ幸いだ。 ファイナンス 2019 Feb.49ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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