ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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公表されたESRでの評価と同様、「ファンダメンタルズ及び望ましい政策と整合している」と指摘している。また、日本の経常収支黒字は企業貯蓄による要因が大きいほか、対外資産ポジションと純所得から生じる所得収支の黒字で、経常収支黒字の大部分が説明できるとしている。IMFによる経常収支・為替レート評価にかかる詳細は植田・服部(2018)を参照されたい。4.おわりに以上のようにIMFの対日4条協議では幅広い日本経済の問題について言及がなされている。もっとも、4条協議でフォーカスされていない重要な論点も数多く存在する点に注意が必要である。例えば、IMFは対日4条協議で我が国の公的債務残高の高さを指摘しているが、日本財政の特徴は、地方自治体に国が地方交付税を交付することで、自治体間の税収の格差を埋め、どこでも一定水準の行政サービスが維持できるようにする機能を有する点である。実際、中央政府の一般会計(2018年度予算)において、地方交付税交付金等は約16%を占めており、社会保障費に占める医療・介護費よりも高く、地方財政に焦点を当てた分析も必要であろう。また、対日4条協議では地域金融機関などを除き、地方経済にあまり触れられない傾向も指摘できる。IMFの評価が画一的な内容になりえることはしばしば指摘されるが、4条協議はIMFと加盟国政府の対話を促す場という側面も看過できない。それゆえ、これまでの4条協議で触れられてこなかった問題等にも着目し、特に日本の人口動態が経済に及ぼす影響を様々な角度から精査し、情報発信していくことが益々求められているのではないだろうか。それにより、日本政府の様々なチャレンジや政策における取組が4条協議報告書を通して浮き彫りにされ、産みの苦しみを味わう日本政府の政策づくりが世界にハイライトされるだろう。参考文献[1].井出穣治・児玉十代子(2014)「IMFと世界銀行の最前線」日本評論社[2].植田健一・服部孝洋(2018)「IMFによる対外不均衡の評価について」ファイナンス 6月号,66-73.[3].神田眞人(2017)「対日金融審査について」ファイナンス 9月号,54-63.[4].千田正儀・鴨志田拓也(2017)「「Initiative for Macroecon-omists of the Future:エコノミスト養成プログラム」について」ファイナンス10月号,15-18.[5].服部孝洋(2018)「市場流動性の測定 ―日本国債市場を中心に」ファイナンス 2月号,67-76.[6].Mariana Colacelli and Emilio Fernandez Corugedo. 2018. Macroeconomic Effects of Japan’s Demographics:Can Structural Reforms Reverse Them? IMF Working Paper. ファイナンス 2019 Jan.62シリーズ 日本経済を考える 85連 載 ■ 日本経済を考える

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