ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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ミクス強化に際し、中期的に健全な財政政策の必要性や構造改革による長期成長の促進等の必要性が指摘された。3.2. 公的債務残高と社会保障費の問題対日4条協議で継続的に指摘されている論点は我が国の公的債務残高である。IMFは財政政策が必要な需要の下支えをしていると評価する一方で、高水準にある公的債務残高のリスクを継続して指摘しており、段階的な消費税の引上げを提言している。IMFは消費増税の具体的な水準にも言及しており、少なくとも15%までは段階的に引き上げることを提案している。また、消費税率引上げに際しては、効率性等を配慮するため、単一税率の仕組みを維持するべきであるとしている。一方、我が国の財政赤字の背景に社会保障費の急増があることにも言及しており、効率的な医療改革など社会保障費の抑制について抜本的な改革を求めている。2018年の協議では、2020年のプライマリー・バランス(PB)黒字化目標はより現実的な2025年に延期された点をIMFは指摘しており、2019年、2020年の財政スタンスは中立を維持する一方で、2021年から構造的PBを対GDP比0.5%程度、毎年改善していく漸次的アプローチが中期的財政健全化計画に盛り込まれるべきと指摘している。また、消費税率を10%以上に引き上げることの重要性に加え、医療改革の必要性について引き続き確認された。3.3. 日銀による緩和的な政策および金融システムの安定性IMFは安倍政権発足以前より大規模な金融緩和を求めてきたことから、日銀の緩和的な金融政策については全体的に肯定的な評価をしており、引き続き緩和的な金融政策のスタンスを維持すべきとしている。その一方で、目標であるインフレ率2%を達成する目途が立っていない点に対して懸念を示している。特に物価上昇2%目標の達成時期がたびたび先送りされている*17) 日本経済新聞(2016/6/20)「『物価目標、時期外すべき』IMF筆頭副専務理事」*18) IMFは市場流動性の低下についても懸念を示している。詳細は服部(2018)を参照。*19) 具体的には、人口動態の特徴を新たに追加したGlobal Integrated Monetary and Fiscal Model(GIMF)を用いた分析がなされている。詳細は2018年の4条協議報告書およびColacelli and Fernández Corugedo(2018)を参照のこと。*20) 日本経済新聞(2018/11/29)「40年でGDP25%減 IMF、日本に構造改革促す」などを参照。ことを受け、昨年については、デビット・リプトン筆頭副専務理事が「日銀は物価水準2%目標から達成時期を外すべきだ」というコメントをしたことも話題になった*17。2018年での協議では、期待インフレ率を高める明確なフォワードガイダンスやさらに強化された金融政策の枠組みの必要性が指摘されている。なお、緩和的な政策が継続することに伴う金利低下環境が金融システムを悪化させる可能性についても言及されている*18。日本の金融セクターは安定的としているものの、特に地域金融機関については、低金利と人口減少に伴う収益環境の悪化が長期的なリスクとして指摘されている(この点は2017年のFSAPでも指摘されている)。一方、日本当局が検査・監督を継続して見直していることは肯定的に評価されており、2018年の協議では引き続きこの改革を継続することの重要性が言及されている。3.4. 労働市場を中心とした構造改革IMFは労働市場を中心とした構造改革についても継続して指摘している。具体的には、日本の女性の労働参加率の上昇に加え、高齢者や外国人労働者の増加に対して肯定的な評価がなされる一方で、これらについて引き続き上昇させる必要性を指摘している。また、税や社会保障に起因する正規雇用のディスインセンティブを除外する点についても近年言及されている。2018年の協議において、日本の少子高齢化がマクロ経済にもたらす影響を中心に議論がなされたことから、スタッフレポートでは人口動態の変化や労働市場改革に伴う影響について分析がなされている。例えば、IMFが開発したモデル*19を用いて、人口減によっては今後40年で実質GDPが25%以上減少するものの、構造改革の実行により40年で最大15%、実質GDPを押し上げるとの試算を示し、メディアでも大きく報じられた*20。3.5. 対外バランス2018年の対外バランスの評価については、7月に61 ファイナンス 2019 Jan.連 載 ■ 日本経済を考える

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