ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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国を数週間訪問し、当該国の政府や中央銀行等と協議を行う*13。我が国については、通常、毎年夏前後に実施される。例えば、2018年については9月の後半にIMF代表団が2週間程度日本に訪問し、財務省や日銀、また民間セクター等へヒアリングがなされた。また、日本における地域経済の動向を調査するために仙台と大阪も訪れ、地方財務局、日本銀行支店、市役所、及び民間セクター等におけるヒアリングがなされた。地方におけるサーベイランス活動は初めての試みで、日本の人口減・高齢化が及ぼす経済への影響を検証する上で、今後その重要性は増すだろう。このサーベイランスを行う上で重要になってくるのがチームの構成である。対日4条協議におけるIMF代表団は地域局(Area Department)に所属するアジア太平洋局(Asia Pacic Department, APD)を軸に、機能・特別サービス局(Functional and Special Services Department)に属する財政局(Fiscal Affairs Department, FAD)や金融資本市場局(Monetary and Capital Markets Department, MCM)のエコノミストなどにより、多角的な視野で経済を分析するために必要なメンバーで構成される*14。2018年時点についてはミッションチーフであるポール・カシン(Paul Cashin)氏をヘッドに7名で構成され、主にロジスティクスと広報を担当するIMFアジア太平洋地域事務所(Regional Oce for Asia and the Pacic, OAP)と財務省国際局国際機構課の密な連携に基づき進められた。対象国以外の国籍を主軸にIMF代表団を構成するなど、中立的な評価がなされるよう様々な工夫がなされている。2018年における対日協議においてはクリスティーヌ・ラガルド(Christine Lagarde)専務理事が初めて出席し、IMFからは専務理事室(Oce of Managing Director)の副局長であるアルフレッド・カマー(Alfred Kammer)氏とコミュニケーションズ局(Communications Department)局長のジェリー・ライス(Gerry Rice)氏も同行した。対日協議終了後の記者会見においてもラガルド専務理事が出席し、*13) 4条協議の具体的な内容について日本語で取り扱った書籍として井出・児玉(2014)などがある。*14) IMFの組織の概要はhttps://www.imf.org/external/np/obp/orgcht.htmなどを参照のこと。*15) https://www.imf.org/en/Publications/CR/Issues/2018/11/27/Japan-2018-Article-IV-Consultation-Press-Release-Staff-Report-and-Statement-by-the-Executive-46394を参照のこと。*16) 詳細はhttps://www.imf.org/en/Publications/CR/Issues/2018/11/27/Japan-Selected-Issues-46401を参照されたい。声明文を公表、質疑応答にも臨んだ。その声明文はウェブサイトを通じて発表され、ラガルド専務理事の対日協議における出席はSNSを通じても公表された。その後、IMF代表団は本部に戻り報告書を仕上げ、11月21日の理事会における議論、審査・承認を経て、11月27日に4条協議報告書を発表した*15。その4条協議報告書では、冒頭の「KEY ISSUES」にレポートのサマリーが記載され、末尾の「STAFF APPRAISAL」にスタッフによる査定結果がまとめられる。4条協議報告書では各段落の冒頭の文章がその段落を集約する一文となっており、段落の冒頭の文章だけを読んでもレポートの概要が理解できるように作成されている。各国経済状況について英語で平易に説明されており、政府だけでなく、民間セクターなど幅広く読まれている。また、IMFの見解のみならず、協議相手国の意見についても「The Authorities’View」という項目で反映されており、IMFと政策当局者との対話を垣間見ることができる。注目に値する個別のトピックに関しては、「BOX」というコラムで紹介される。なお、4条協議報告書のバックグラウンドペーパーとして「Selected Issues Paper(SIP)」が同時に公表され、そこには報告書の中で記載された主要な論点が詳細に議論されている(2018年については消費増税や人口動態がもたらす影響など7つのテーマが含められている)*16。3.対日4条協議の概要3.1. アベノミクスに対する全体的な評価これまでの対日4条協議ではアベノミクスについて全般的にみて肯定的な評価がなされている。特に、大幅な金融緩和、企業利益の改善、女性の労働参加率の上昇に加え、構造改革の進展を指摘している。また、自然災害がある中で、日本経済が潜在成長率を上回るペースで成長している点も肯定的に評価している。2018年の協議では、日本の少子高齢化がマクロ経済にもたらす影響を中心に議論がなされており、アベノ ファイナンス 2019 Jan.60シリーズ 日本経済を考える 85連 載 ■ 日本経済を考える

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