ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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がなされる*7。具体的には、「地域経済見通し(Regional Economic Outlook, REO)」に代表される主要地域経済のサーベイランス(Regional Surveillance)と世界経済と金融市場、及び財政状況を多角的にモニタリング・分析する世界経済のサーベイランス(Global Surveillance)がある。世界経済のサーベイランスにおけるIMFの見解は、3つのフラッグシップ・パブリケーション(Flagship Publications)を通して、春季会合(Spring Meetings,4月)と年次総会(Annual Meetings,9-10月)のタイミングで年に2回公表されている*8。その3つのパブリケーションは、IMFエコノミストの分析を示した「世界経済見通し(World Economic Outlook, WEO)」、金融市場の安定性に対してリスクとなる金融の不均衡や脆弱性を評価する「国際金融安定性報告書(Global Financial Stability Report, GFSR)」、そして、公共財政の動向を評価した「財政モニター(Fiscal Monitor, FM)」である*9。いずれも、後述する国別サーベイランスが、地域・世界経済の多国間サーベイランスの基盤をなしている。この国別サーベイランスの根幹をなしている活動が本稿で取り上げる4条協議である*10。4条協議と呼ばれる所以は、加盟国はIMF協定第4条に基づきサーベイランスを受ける義務を有しているためである。IMF協定4条のうち、特に3項に具体的な監視に係る記述があり、条文では下記の通り記載がなされている。この協定4条に基づき、IMFは各加盟国に代表団を送り、サーベイランスを行っている。第四条 為替取極に関する義務第三項 為替取極の監視(a) 基金は、国際通貨制度の効果的な運営を確保するため国際通貨制度を監督し、また、第一項の規定に基づく各加盟国の義務の遵守について*7) https://www.imf.org/ja/About/Factsheets/IMF-Surveillanceを参照。*8) これまでの春季会合および年次総会についてはhttps://www.imf.org/external/am/index.htmを参照。*9) フラッグシップ・パブリケーションの詳細はIMFウェブサイト(https://www.elibrary.imf.org/page/fa4)を参照されたい。*10) IMFがサーベイランスを行う際は、「ファイナンシャル・プログラミング(Financial Programming, FP)」や「債務持続性可能性分析(Debt Sustainability Analysis, DSA)」など、IMFが開発した経済分析ツールが用いられるが、OAPはIMFが開発したツールを幅広く周知し、将来のエコノミストを養成するためにセミナーなどを実施している。主なコースはエコノミスト養成プログラムであり、国際協力機構(JICA)の宿泊施設を利用しての合宿形式で、元IMFエコノミストからマクロフレームについてレクチャーをするほか、グループディスカッションも行われる。昨年設立したばかりであるが受講生からは、IMFによるマクロ経済分析の手法について座学だけでなく、議論を通じて学ぶことができたなどの声を頂いている。関心のある方はOAPのホームページ(https://www.imf.org/ja/Countries/ResRep/OAP-Home)を参照されたい。なお、FPやDSAについてはIMFがOnline Learningを提供しているため、より詳細を知りたい方はそちらを参照されたい(https://www.imf.org/external/np/ins/english/learning.htm)*11) 対外部門の安定性に関する報告書の詳細については植田・服部(2018)を参照されたい。*12) 詳細はhttps://www.imf.org/en/Publications/CR/Issues/2017/07/31/Japan-Financial-System-Stability-Assessment-45151を参照。日本語での解説については神田(2017)を参照のこと。監督する。(b) 基金は、(a)の規定に基づく任務を遂行するため、加盟国の為替相場政策の確実な監視を実施し、また、為替相場政策に関するすべての加盟国に対する指針とするための特定の原則を採択する。各加盟国は、この監視のために必要な情報を基金に提供しなければならず、また、基金が要求するときは、自国の為替相場政策について基金と協議しなければならない。基金が採択する原則は、加盟国が一又は二以上の他の加盟国の通貨の価値との関連において自国通貨の価値を維持する二以上の加盟国の間の協力的取極並びに基金の目的及び第一項の規定に合致する他の為替取極であつて加盟国が選択するものと矛盾するものであつてはならない。この原則は、加盟国の国内の社会的又は政治的政策を尊重するものでなければならず、また、基金は、この原則を適用するに当たり、加盟国の置かれた状況に妥当な考慮を払わなければならない。4条協議については、各国経済における経常収支や為替レート等の分析も含まれるが、IMFでは4条協議とは別に「対外部門の安定性に関する報告書(External Sector Reports, ESR)」でも2012年以降、経常収支や為替レートの評価を行っている*11。その他、金融の安定性にかかるサーベイランスとして、IMFは金融セクター評価プログラム(Financial Sector Assessment Program, FSAP)を実施している。FSAPはアジア通貨危機以降導入され、2008年の金融危機を受けて、2009年に抜本的な見直しがなされた。日本のおけるFSAPについては5年に一度実施されており、直近は2017年にレポートが発表されている*12。4条協議では年に1回、IMFのエコノミストが当該59 ファイナンス 2019 Jan.連 載 ■ 日本経済を考える

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