ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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監視することであり、また貿易の障害となるような為替規制を撤廃することであった。1945年12月、最初の加盟国である29カ国がIMF協定に署名し、以後、加盟国の数は拡大し、現在では189か国(2018年12月時点)になる。IMFは大きく分けて三つの機能を有している。第一の機能は、国際収支上の困難に陥った国々に対する「融資」(Lending)である。例えば、こうした国々は資金の返済にリスクがともなうことから、他に資金を借りる相手国がおらず、状況がますます悪化し立ち行かなくなる可能性を有する。そこで、IMFは、そうした国々に資金融資を行うということで、いわゆる「最後の貸し手(Lender of Last Resort)」としての役割を果たしている。当該国政府はIMFからの融資を受ける場合、IMFとの同意に基づき、経済状況を改善するために必要な政策を政策助言(ポリシー・リコメンデーション)に基づき遂行しなければならない。このような制約はしばしばコンディショナリティー(Conditionality)と呼ばれる*6。その場合、定期的な融資状況の審査と(後述する)4条協議におけるサーベイランスを通じて、経済状況の改善を実行していく。第二の機能は「サーベイランス」(Surveillance)である。IMFでは通常年に1回、加盟国に代表団を派遣し、その国の財務省や中央銀行をはじめとした政府当局者と経済状況を議論し、政策についての提言を行っている。IMFはアジア通貨危機時のタイやインドネシア、韓国での融資における対応で、過去に大きな批判にさらされた。深刻な危機に対応するためには、当事国だけでなくIMFにも大きな痛みが伴うことがあるがゆえ、「サーベイランス」と呼ばれるメンバー諸国に対する政策監視機能は、加盟国が危機に陥ることを防ぐための重要な役割を果たしている。IMFのこれら2つの機能は、ちょうど医療現場を例に挙げると分かりやすい。例えば患者が突然の心臓の病に陥った時、医者が緊急の手術を行う。これはIMFの融資に例えることができる。しかし、こうした手術は常に難しいものであることは想像するに難くない。こうした事態に陥る前に、例えば年に1回人間ドックを受けて、心臓病につながるような高血圧などが発見*6) https://www.imf.org/external/np/exr/facts/jpn/conditioj.htm等を参照。できれば、その後の深刻なトラブルを未然に防ぐことができる。このような健康診断にあたるものが、IMFのサーベイランス機能である。本稿で紹介する4条協議はこのサーベイランスに相当するがゆえ、次節で詳細に説明を加える。最後の3つ目の機能は「能力開発支援」(Capacity Development)である。IMFは、栄養士やジムのトレーナーが参加者に対して健康に関する助言やトレーニングを行うように、途上国や新興国を中心とした加盟国に政策に関する能力開発支援を行っている。上述のように、定期的に行われる「サーベイランス」を通して、健康状態の改善を要求される国も多くある。その場合、常日頃から自分自身で健康に気配りをする必要が求められると同時に、バランスの取れた食事や運動を通じて、健康な身体を維持する必要が出てくる。その意味で、加盟国においては4条協議報告書にまとめられたIMFの政策助言に従い、必要な政策対応が求められる。それぞれの国が自らの経済を適切に分析し、問題に対応していく政策立案、決定及び実施能力を高めることが出来れば健康状態の改善にもつながり、国がトラブルに陥るリスクが少なくなるはずである。そのためにIMFでは幅広い分野において加盟国のニーズに従い技術支援を供与している。その重点分野には、財政政策と財政運営、金融政策と金融システム、マクロ経済統計と金融統計、また法的枠組みが含まれる。こうした技術支援はIMFの他の2つの機能と密接に関わり、IMFの業務に相乗効果を与える上でより重要性が増してきている。なお、この役割に日本が大きな貢献を果たしてきたこともハイライトすべきだろう。特に日本政府は、IMFの能力開発支援に対して資金的支援に合意した1990年以降、アジアを中心に多額の拠出を行ってきた。その拠出額では、IMFのメンバーの中で最上位である。2.2. 4条協議の概要IMFによるサーベイランスには、「多国間サーベイランス」(Multilateral Surveillance)と「国別サーベイランス」(Bilateral Surveillance)がある。「多国間サーベイランス」では多国間の経済情勢のモニタリング・分析 ファイナンス 2019 Jan.58シリーズ 日本経済を考える 85連 載 ■ 日本経済を考える

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