ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html「IMFの対日4条協議」について*1国際通貨基金 アジア太平洋地域事務所 次長柏瀬 健一郎財務省 財務総合政策研究所 研究員服部 孝洋シリーズ日本経済を考える851.はじめに本稿は国際通貨基金(International Monetary Fund, IMF)の4条協議の概要を説明することを目的としている。IMFによれば、4条協議とはIMF協定第4条の規定に基づき、加盟国と行う協議を指す*3。IMF代表団が協議相手国を訪問し、経済・金融情報を収集するとともに、その国の経済状況及び政策について政府当局者等と協議する。2018年については9月20日から10月4日の日程でIMF代表団が訪日し、対日4条協議が実施された。IMF代表団が本部に戻った後、代表団のメンバーは理事会における議論の土台となる報告書を作成する。4条協議では、協議相手国を訪問後、理事会の承認を受けた上で、4条協議報告書(Staff Report)が公開される。前述の2018年の対日4条協議に際しては、2018年11月27日にIMFのウェブサイトを通じて協議報告書が公表された*4。4条協議報告書ではIMFがサーベイランスの一環として行う政策提言だけでなく、対象国の経済構造やその時々の経済状況が包括的にまとめられている。4条協議報告書そのものは政府への政策提言だけでなく、各国の状況を把握するという意味で、民間セクターで働くプロフェッショナルにとっても有益な情報が盛り込まれている点が特徴である。*1) 本稿を作成するうえで、財務省 国際局 国際機構課 瀧村晴人総括補佐、西岡凌係長、国際局 総務課 徳岡喜一室長、大臣官房 総合政策課 上田淳二調整官、道上友里香係長、主計局 地方財政係 矢原雅文主査、財務総合政策研究所 林ひとみ主任研究官、IMFアジア太平洋事務所 鴨志田拓也エコノミストより有益な助言や示唆をいただいた。本稿の内容や意見は全て筆者の個人的な見解であり、筆者らが所属する組織の見解を示すものではない。*2) 現在は財務省に所属。2015年から2018年までIMFアジア太平洋地域事務所にてエコノミストとして勤務。*3) https://www.imf.org/ja/News/Articles/2017/07/31/pr17307-japan-imf-executive-board-concludes-2017-article-iv-consultationなどIMFウェブサイトなどを参照。*4) https://www.imf.org/en/Publications/CR/Issues/2018/11/27/Japan-2018-Article-IV-Consultation-Press-Release-Staff-Report-and-Statement-by-the-Executive-46394を参照。*5) 本節の記述はhttps://www.imf.org/External/japanese/pubs/ft/whatj.pdfなどIMFウェブサイトの記載に基づいている。本稿は4条協議に係る基本事項を確認した上で、4条協議報告書を読むために必要な知識をコンパクトにまとめている。また、本稿ではアベノミクス以降の対日4条協議の内容について簡潔に整理している。4条協議報告書は多くの国の経済状況の基礎情報を提供しているがゆえ、政府や中央銀行関係者はもちろん、海外調査が必要な民間セクターも読者として想定している。本稿の構成は下記の通りである。2節でIMFの役割と4条協議の概要について整理し、3節で近年の対日4条協議について整理する。4節は結語である。2.IMFの役割と4条協議の概要2.1. IMFの役割IMFは、世界銀行とともに、1994年のブレトンウッズ協定によって設立された機関である。IMFの設立には、世界大恐慌後の各国の保護主義の高まりによる国際経済の混乱を招いた反省にたって、自国第一主義の政策運営に国際的に歯止めを立てるために作られた経緯がある。その当時、世界は経済の安定と国際通貨体制の秩序回復を必要としており、IMFの創設者たちは、そのためにIMFを設立し、加盟国からのサポートのもとに特別な役割を担わせた*5。その役割とは、為替レートの安定を確保するため国際通貨システムを国際通貨基金 アジア太平洋地域事務所 元エコノミスト千田 正儀*257 ファイナンス 2019 Jan.連 載 ■ 日本経済を考える

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