ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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らあと1日でできるかな。明日も10時に持ってきて。有難う。」といった感じです。ここで留意すべきことは、脳は自分が「しよう」と思うことしか処理しない、怠慢な仕組みだということです。すなわち、「感謝」や「期待」は意識して「言おう」と思わないと、使えないということです。実は皆さんへのアンケート結果「気を付けていること」では「感謝する」という回答が非常に少なかったのです。是非「感謝」「期待」の承認行動を「気を付けて」増やしてください。また、伝聞による他者からの評価は、「褒められた感」が増すものです。「幹部のAさんから君の名前が出ていたよ」と上司から言われると、期待が暗示され、自己認証欲求が満たされ、部下のやる気につながります。リーダーは、情報収集はもちろん、情報をうまく使って、部下の成長を支援してください。承認する際に、修正したい部分があるときには、「ここを○○○のようにすると、<もっと>良くなると思うけれども、君はどう思う?」というように、「修正ポイント指導」+「もっと良くなる」+「相手に選択権を持たせる」ようにすると、部下は納得感を増し、行動に移しやすくなります。一方、「承認」は、部下の「望ましい行動」に行うため、的確な目標行動設定が不可欠と言えます。注目すべきは、目標設定は「上司」の仕事である点です。「部下が成長しないのは、上司の責任」という所以です。(4)目標行動の設定方法設定の手順を説明します。まず必要なのは、課題分析です。上司は、調査・観察、本人への聞き取りを行うなどして、改善すべき問題を洗い出します。次に、最も取り組みやすい課題を精査し、部下に提示、そして、部下の納得を得た上で目標行動として設定します。この場合、部下に無断で設定するのではなく、公式面談などの場で、意思を確認することが大切です。a.目標行動設定「5つの鉄則」と「定義の一致」目標行動を設定するに当たり、ポイントが2つあります。第一に、目標行動は、次の「5つの鉄則」に沿った設定が推奨されています。「誰が見てもわかる具体的な行動」、「数えられる行動」、「禁止より提案的言い回し」、「自分や他人に役立つ行動」、「倫理的な範囲で行う行動」です。第二に、上司と部下との間で定義を一致させることです。例えば「積極性」の定義は、コミュニティや個人によって様々です。どのような「具体的行動」が積極性なのか、上司が部下に、明確に提示できることが必要です。私の修士論文から少し引用してお話しします。某一部上場企業において、幹部候補生を昇進させるために、足りない部分をコーチングする取り組みを行いました。上司から、幹部候補のAさんに足りないのは「積極性」という指定を受けました。ところが、上司に、積極的に見えるための、改善すべき「具体的な行動」を尋ねたところ、即答できなかったのです。上司が分からない行動は、部下も分かるはずがありません。上司の指導が先決だったのです。その後上司が設定した、誰が見ても評価できる、改善すべき3つの行動とは、(ア)取引先等で気付いたことを毎日1行でいいのでメールで報告する(イ)電話は、クレーム以外は3分で切る(ウ)帰社したら、5分以内に報告するということでした。積極性の正体は、このような行動だったのです。「目に見えない」積極性に悩んでいた部下は「こんなこと?」と、拍子抜けした反応でした。注目すべきは「定義を一致させる」点です。(ウ)は、定義の不一致が問題でした。部下は、上司が多忙を極めていたため、気を遣って報告に行かなかったのです。部下が委縮する環境を上司自身が作っている可能性も忘れてはなりません。その後の結果もお伝えしましょう。目標行動を見える化した結果、部下の望ましい行動は増え、上司は「積極性が見られるようになった」と、めでたく評価が変わりました。一方の部下はというと、行動回数の増加は、「指示が明確だし、叱責されないので継続できただけ、やる気が出たわけではない」と述べていたのです。その後は、むしろ、上司による承認スキルの向上により、部下は、ようやく「褒めて貰えるので、やる気が出た」と、自己効力感につながりました。b.行動改善の注意点行動改善の基本は、ご自身に関しても相手に対して45 ファイナンス 2019 Jan.連 載 ■ セミナー

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