ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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件で嬉しい気持ちになります(快)。次に承認と上司をセットにしても、仕事ぶりが承認されるので、やはり無条件で嬉しい気持ちになります。やがて、承認はなくても、上司を見ただけで、嬉しい気持ちになります。これが信頼の構図です。逆に、叱責されると、人は無条件で冷や汗をかき、不快な思いをします。次に叱責と上司をセットにしても、やはり無条件で冷や汗をかき、不快な思いをします。やがて、叱責がなくても上司を見ただけで、冷や汗をかき、不快な思いをするようになります。これがハラスメントの構図です。皆さんへのアンケート結果の中で「部下がよそよそしい。」という回答がありました。その部下は、かつて上司に主張して不快な経験をし、結果、上司を見たら、忖度する、距離を保つ、ということを、無意識に身に付けているのかもしれません。そのような場合には、上司が「望ましくない行動」を「望ましい行動」に変える必要があります。つまりレスポンデント行動を改善するのです。方法は2つです。パブロフの犬で行われた、他の実験例を示しながらご説明します。(ア)メトロノームの音で、「快」である肉と条件付けされた犬に、肉の提示を中止して、音だけ提示し続けたところ、唾液量が減少しました。人間関係でいうと、主張するという「快」を上司により取り去られた状態です。異動や配置換えをして、他の上司が部下に新しい経験を与え、率直な意見交換による良い関係を結ぶ。すると、新たな条件付けが生まれ、関係改善につながります。(イ)犬に、音とともに電気刺激で「不快」な恐怖反応を条件付けした後で、電気刺激に代えて「快」である肉の提示を始めると、恐怖心が消失して、再び唾液分泌が始まりました。人間関係でいうと、「叱責」の代わりに「承認」を与え続ければ、部下の感覚を「不快」から「快」に変えられる、ということです。しかし、この場合、人間は感情の生き物なので、あまりに急激な変化は、部下は理由が分からず、不安を持ってしまいます。上司は、まず叱責した過去を謝罪した上で、部下が取るべき望ましい行動を伝え、承認行動を行うという手続きが必要となります。b.オペラント行動オペラント条件付けは「やる気」を作ります。先に述べた、ネズミのレバー押しの実験を人間関係に当てはめてみます。上司に仕事の相談したとき、上司から承認されるという経験をします。すると、また承認されたいという気持ちから、相談する回数が増えていきます。このような部下からの相談回数の増加は、上司にとって部下にやる気が出てきたように見え、一方の部下は承認されるので、自己効力感や充実感を得ることができ、「やる気」につながります。注意点は、部下の「望ましい行動」に対してすぐに承認する、また、直後に伝えられない場合は良かった点を口頭で説明するなどして、どの行動が望ましい行動なのか、確実に示すことです。オペラント条件付けを使ったリーダーシップ発揮法例を挙げましょう。もし、上司に動いてもらいたい「望ましい行動」があれば、その行動を提示し、実行したときに、「一同感謝しています」のように、上司の行動を承認し続けることです。上司にも、何が望ましい行動なのか、気分の良い経験をもって理解してもらうことが大切です。次に、部下を教育するときには、望ましい行動を設定し、「行動を起こしたら承認」を繰り返すのです。行動回数が増えることで、周囲からは部下に「やる気」を持たせたように見えるため、皆さんの教育能力が評価されます。また、部下には自己効力感や成長感を持たせることができ、部下から親近感や信頼感を得ることができます。(3)承認について「報酬」を、あえて「承認」としました。必ずしも「承認」=「褒める」ではないからです。承認のポイントは、完了・未完了点の事実を「観察」「確認」し、最後に「感謝」と「期待」を述べることです。「感謝」と「期待」は、自分で言いやすい言葉の「型」を持っておくと、習慣化しやすくなります。承認行動は、(a)「結果の承認」、(b)「行動や過程の承認」、(c)「存在の承認(感謝・期待)」が基本です。例えば「(b)資料作成、お疲れ様。(a)資料の完成度は8割だね。あと2割残っているね。(c)君な ファイナンス 2019 Jan.44上級管理セミナー連 載 ■ セミナー

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