ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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に「信頼」が伝わります。すなわち「信頼」とは、双方が「信頼」と解釈できる、目に見える行動を介して生じた「共通の解釈」なのです。目に見えない「気持ち」はもちろん、「信頼」の定義が一致しない行動をとっても「信頼」にはなりません。懸命に仕事をしたり、長時間労働したり、困難に立ち向ったりする行動は、残念ながら、「信頼」を証明しているわけではないのです。ここで、行動分析学が、「気持ち」にフォーカスしない理由について、更に詳しくお話しします。4.行動の鉄則(1) 行動の原因を「気持ち」「意識」に求めない3つの理由a.目に見えない行動分析学は、科学的な行動改善が可能ですが、誰もが同じ評価ができる、目に見える行動があってこそです。行動の原因を、目に見えない「気持ち」や「意識」に持ってきてしまっては、改善に向けた操作ができません。同じ「気持ち」から起こる行動や、同じ「行動」を引き起こす「気持ち」は多様なので、原因が特定できないからです。b.循環論を避ける「意識」「気持ち」を行動の原因に求めてしまうと、理由が循環して堂々巡りします。「あの人はやる気がないね。」「なぜですか?」「だって、こちらが伝えた通りに仕事をしないんだもの。」「その理由はなんでしょうか?」「やる気がないからでしょう。」と、元に戻り、解決しません。しかし、「やる気がない」の原因を「経験」「環境」に求めると、改善策が見つかります。もし、「知識不足」のために手順が分からないなら勉強を、「経験不足」のために熟練度が低いならスキル訓練を、「家庭や人間関係」等、環境面の問題で仕事が手につかないなら、勤務体系見直しや配置換えをすれば「やる気」が改善します。皆さんのアンケート結果の中で「繁忙期で忙しい人を見ても手伝わない若者がいる」という回答がありました。原因を、「失礼な性格」や、「配慮する能力の欠如」に求めては循環論に陥ります。もしかすると、生活様式の変化から、手伝うという「経験」が乏しく、やり方が分からないのかもしれません。また、「忙しい時は手伝いをする」意識はあっても、経験不足から、手伝うタイミングが分からない可能性もあります。「経験」というストックが無ければ、出すことはできません。無いなら、作ってあげなければなりません。手伝いが必要な時には「Aさんが忙しいので、手伝ってほしい。」と上司が言って、経験を積ませる、そして「手伝うと評価が上がる」「感謝されて関係が良くなる」と、手伝う意義を知識として教える必要があります。「なぜ」の原因を経験や環境に求めれば、循環論を回避できます。「気持ち」を考えるときに重要なことは、人間は「社会的な生き物」だということです。人は「経験」してきた出来事によって「意識」が作られ、物事を判断します。相手が同じ人生を歩んでいないなら、判断が異なるのは当然のことなのです。c.精神主義からの脱出「使命感」「豊かな社会」といった精神性の高い言葉やスローガンは、行動を引き出す力があります。一方、スポーツ界を席巻した一連のパワハラ騒動は、「根性」「忍耐」「努力」といった精神主義が問題となりました。では、精神主義はダメなのかというと、そうではありません。具体的なプログラム内容や実施計画、いわゆる「型」が確立されていれば、これほど素晴らしいことはありません。例えば、道元の「正法眼蔵」には座禅の方法のほか、日常生活の食事から洗面まで、「型」が詳細に記述されています。「型」を習得して初めて禅の「精神性」が分かります。座禅も組んだことがない人に、禅の精神性を説いても理解できるはずがないのです。皆さんへのアンケート結果の中で「公務員とは何たるかが分かっていない若者が増えてきた。」という回答がありました。これは部下の「公務員としての意識」、すなわち「精神性」を問題とするのではなく、具体的な経験値が少ない可能性を推測していただきたいのです。まずは上司が、公務員として取るべき行動=「型」を部下に提示し、実践したら「それが公務員だ」と指摘する。具体的な行動を理解させて、経験値を上げてほしいのです。 ファイナンス 2019 Jan.42上級管理セミナー連 載 ■ セミナー

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