ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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での「若者との付き合い方」、「部下の自発的行動の即時促進方法」「人事異動後早期の信頼関係構築のキッカケ作り」など、ハラスメントやメンタルに配慮した人材育成や関係構築に、高い関心が向けられていることが分かりました。それでは、このアンケート結果も随時取り込む形で、話を進めていきたいと思います。3.リーダーシップ概論(1)昨今のリーダーシップ事情リーダーシップ論はプラトンの時代から始まり、合理主義や啓蒙主義、そして、19世紀末の「支配型」カリスマ論を経て、近年は、状況適応理論が主流となっています。直近では、「支援型」、具体的には「温かみを示す」ことが、望ましい感情を生み、その感情こそが信頼構築の土台を作り、影響力発揮につながるとされています。アンケート結果では、環境・雰囲気作りの際、「プレッシャーを与えない」、「自分の弱みを見せる」など、部下の方々に対して「温かみ」を示そうとする配慮が見られ、皆さんは、まさに時流に乗った試行錯誤をされていると感じました。(2)リーダーの素養とリーダーがすべき行動アンケートでも多数頂きましたご質問です。結論から申し上げますと、「リーダー」となるために必要なのは、性格などの「素養」ではありません。「サーバント・リーダーシップ」と「戦力分析」(調査・観察力)の2つの「行動」です。a.サーバント・リーダーシップサーバントは「召使い」の意(大辞林)ですが、リーダーシップにおいては「まず、相手に奉仕し、その後に相手を導く」という意味で使われます。カッコ内が、具体的に取るべき「行動」です。(ア)部下や上司のフォロワーとなる(自分から声をかけ、相手が動きやすい環境を作る)(イ)相手に伝わるよう共感的理解を示す(傾聴)(ウ)支援や励ましを行い、モチベーションを持たせる(「行動の基礎」で後述します)(エ)着地点「ビジョン」を示す(どの方向に向かっているか、全体像や現在地点を伝える)(オ)情報網を構築する(人脈作りに足を運ぶ)b.戦力分析(調査・観察力)戦力分析は、いわば、行動分析学そのもので、調査・観察力を要しますが、リーダーには、自己分析と他者分析の、2つの分析力が必要です。自己分析は、ご自身の「思考の傾向」や、「長所・短所」といった「特徴」を知ることです。他者分析は、相手の経験値(例えば、育ってきた環境・備わっているスキルレベル)、そして、現在おかれている状況(職場環境・人間関係・仕事の状態)を調査観察し、分析することです。この二つの分析は、相手の考え方や感じ方とのギャップを知ることに役立ちます。人は、ギャップに対し、不安や不信感、ネガティブな感情を持ちます。このギャップを埋める行為こそが、人間関係構築を助け、かつ、パワハラ・セクハラ防止に役立ちます。具体的に申し上げますと、例えば、体育会系と言われる方は、比較的、上下関係に厳しいバイアスをかける傾向にあります。このバイアスは個人の過去の経験値であり、無意識の訓練により獲得した思考で、「常識」ではありません。しかし、自分の思考の傾向を認識していないと、例えば、敬語が使えない相手に対し、非常識で無能だと、怒りの感情でパワハラの空気を作り、人間関係を悪化させます。一方で、自分の思考の傾向を知っていれば、感情の根源が、相手との経験値の差であることに気付き、かつ、他者分析で、相手が「人間関係がフラットな文化系出身」と分かれば、「不遜なのではなく、経験が無いだけ」「教えればできる」という思考に至り、「支援型」の指導で前向きな感情を生み、信頼につなげられます。このように、「敬語が使えない」といった行動の原因を、その人の「性格」「能力」に求めず、相手の経験値や、おかれた環境などに求め、望ましい行動に改善していく。この時、フル稼働するのが、経験値の差の調査力、現状の観察力。更に、得られた情報を「戦略的」、即ち、無用な戦いを略し、必要最低限の力で効果的に人を動かす、これが、リーダーに必要な力なのです。次に、アンケート結果にもありました「早期の関係構築」について、対策例をご提案します。 ファイナンス 2019 Jan.40上級管理セミナー連 載 ■ セミナー

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