ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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コラム 海外経済の潮流118大臣官房総合政策課 海外経済調査係 保倉 拓人基礎から勉強タイトオイルの概要原油価格は、株式市場や債券市場に影響を及ぼすこともあり、その動向には米国大統領も注目している。本稿では、原油価格の動向をつかむ上で見逃せない存在となったシェールオイルを含むタイトオイルについて、基本的事項をまとめる。タイトオイルとは、タイトサンドオイル(tight sand oil)とシェールオイル(shale oil)の総称であり、非常に孔隙率・浸透率の低い(=tight)砂岩に含まれる原油を指す【図1】。どちらも、通常の原油と同等の成分を有しており価格に差は無いものの、通常の原油とは異なる賦存形態や、技術的な問題等により近年まで本格的な生産が行われてこなかったことから、非在来型原油とも呼ばれる。タイトサンドオイルは、確認されている埋蔵量の9割以上がベネズエラとカナダに存在している。とりわけカナダでは、埋蔵が確認されている原油の約97%をタイトサンドオイルが占めている*1【参考:図2】。一方、シェールオイルの埋蔵量の上位国は、ロシア、米国、中国などが挙げられる。技術的な観点から、オイルシェールの商業的な採鉱が進んでいる米国が話題になることが多く、米国では、原油産出量の内70%以上をシェールオイルが占めている【図3・4】。従来型の原油と合わせた産出量は、ロシア・サウジアラビアをしのいで世界1位の規模まで拡大している【図5】。これらタイトオイルの開発が進んだ影響を受け、原油の生産量の国別順位は、ここ数年で大きく変化した。結果として生じた産油国間のパワーバランスの変化は、原油価格の動向だけではなく、政治状況にまでインパクトを及ぼすこともある。昨年12月、トランプ大統領はシリアの駐留米軍の即時全面撤退を決定したが、更にイラク・アフガニス*1) Government of Alberta, “Alberta Oil Sands Industry, Quarterly Update”(Summer 2015)*2) 統計にはベイカーヒューズ社(米国)が週次で公表しているデータが用いられることが多い。*3) オイルサンドの一部は地上に存在しており、この場合は原油の採掘にリグは用いないため、全ての原油産出にリグが必要となる訳ではない。*4) 通常の原油のリグの場合は、数ヶ月~数年程度の期間を要すると言われている。タンでも同様に駐留米軍の規模縮小等が検討されているとの報道がある。米国が中東への関与を弱めている背景に、米国が有力産油国となったことで中東の原油供給に依存する必要がなくなり、中東の地政学的安定にコストを割く必要性が低下していることの影響があるとの見方もある。原油価格の動向を探る際、米国のリグ稼働数*2が注目されることもある。リグとは、石油を掘削するための井戸を掘るドリルのことで、採掘にあたっては、地中3,000m程度の深さまで掘削することが多い*3。また、タイトオイルのリグは、掘削を開始してから油井が完成するまでに数ヶ月程度*4の期間を要すると言われており、稼働リグ数の増加が実際の原油生産量に反映されるまでにはタイムラグが生じる。原油価格との関係では、原油価格が上昇すれば生産業者は採算がとりやすくなるためリグ稼働数は増加しやすく、原油価格が下落すれば減少しやすい。一般的にリグ稼働数の増加は、米国での生産・供給が増えるとの見方から原油価格にとって下落要因、減少は反対に原油価格の上昇要因、であるとされている【図6】。しかし一方で、近年は原油価格とリグ稼働数の相関関係が薄れてきていると指摘する意見も存在する。本稿執筆時点の原油価格(WTI)をみると、1バレル50ドルを下回る水準で推移しているが、原油価格の下落を受け、米国の複数のシェール生産企業が2019年の稼働リグ数を縮小させる見通しを公表したとの報道もある。タイトオイルを含む原油価格の動向については、世界経済の先行きを見通す上で重要な役割を果たす場合もあるので、これからも一層注目して参りたい。(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。37 ファイナンス 2019 Jan.連 載 ■ 海外経済の潮流

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