ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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増加する投資有価証券・資産部分について、主要資産の構成比の推移を確認すると、2000年頃から有形固定資産の割合が低下する一方、投資有価証券の比率が大きく上昇しており、国内での設備投資から海外関係会社等を通じた海外事業への投資やM&Aへ資金を振り向けてきた傾向が窺える(図表7)。・設備投資の動向をみると、キャッシュフローの伸びと比べると緩やかな伸びとなっているが、近年増加基調にあり、リーマンショック前の水準まで回復している。ストック面でも、1998年度以降有形固定資産は減少しており、設備投資を減価償却の範囲内に留めてきた傾向が窺えるが、近年は増加に転じている(図表8)。・投資有価証券の増加の一部に寄与していると考えられるM&Aの金額の推移をみてみると、1990年代末頃から企業のM&Aが活発化していることが分かる。内訳をみると、2000年代中頃から海外企業へのM&Aが拡大してきたことが窺える(図表9)。図表7 総資産に占める資産割合0510152025(%)899193959799010305070911131517現預金有形固定資産投資有価証券(年度)図表8 設備投資/CFの推移01002003004000102030405060708090100110899193959799010305070911131517(兆円)有形固定資産額(右軸)設備投資額営業CF(兆円)(年度)図表9 M&A金額の推移05,00010,00015,00020,0009799010305070911131517国内→国内買収国内→海外買収海外→国内買収(億円)(年度)今後の展望・足下の設備投資拡大の背景の一部として、規模拡大を目指すM&A等の成長投資のみならず、労働生産性の向上や人手不足解消に向け、AIやIoT等技術革新への投資が加速していることがあげられる(図表10)。こうした動きは従業員を雑務から解放し、より生産性の高い、高度な知識を持つ業務へシフトさせることができ、労働者還元にもつながるであろう。・他国と比べて日本企業はいまだIoT等の導入率・導入志向が低く、米国や中国等導入を進める国々の企業に対し効率性を高め競争力を維持するためにも、今後AIやIoT等の積極的な導入が期待される(図表11)。・更に、海外投資家を発端としてESG投資といった概念が注目を浴びている(図表12)。企業は利益を生み出すだけでなく社会・環境において重要な役割を果たすことが求められており、今後、資金の使い道が高いリターンをもたらす投資にだけ向かうとは限らなくなり、新しい分析指標が必要になる時代も来るかもしれない。図表10 IoT投資の推移01,0002,0003,0004,0005,0006,0007,00020152016201720182019202020212022国内BtoBロボット市場2,4353,0803,5062,7284,0344,7004,939+5.1%+14.1%5,1951,5003,1504,8216,5398,30710,02021,20005,00010,00015,00020,00025,0002015201620172018201920202030国内のAI市場(億円)(億円)インダストリーサービスインフラ・エンジニアリング農林水産図表11 IoT導入の国際比較(%)100806040200020406080100プロダクトにおける導入率プロセスにおける導入率2015年(実績)2020年(意向)★日本●韓国▲中国■米国◆ドイツ☆日本○韓国△中国□米国◇ドイツ2015年導入率(実績)2020年導入率(意向)(%)図表12 PRIの署名機関数と 資産運用残高の推移05001,0001,5002,0002,50018/417/416/415/414/413/412/411/410/409/408/407/42006/4020406080100署名機関全体の資産運用残高署名機関数(右軸)(注)責任投資原則(PRI)は機関投資家の意思決定プロセスにおいてESG課題を考慮させる世界共通のガイドラインとして考えられている。(兆ドル)(社)(出所)財務省「法人企業統計調査」、レコフ、独立行政法人情報処理推進機構「AI白書」、総務省「情報通信白書」、責任投資原則、各種報道等(注)営業CF=税引後当期純利益+減価償却ー売上債権の増加額ー棚卸資産の増加額+仕入れ債務の増加額+支払利息等、設備投資額=建設仮勘定の増加+その他有形固定資産の増加+減価償却費 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2019 Jan.36コラム 経済トレンド 55連 載 ■ 経済トレンド

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