ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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慮しない場合、1200ドルのセットを5年で分割払いすると、月20ドル。これを負担してもオフグリッドシステムを利用したいと考えるか、また、実際に支払えるかどうかは、前述のWillingness to PayとAbility to Payに依存します。*8全額利用者負担でコストリカバリーが可能と見込まれる場合には、民間事業者がビジネスベースで電化プロジェクトを行うことも考えられます。その場合でも、政府やMDBsは、品質を担保する基準・認証などの制度整備や低利のローンの提供などによってこれを支援できるかもしれません。なお、現在パイロットを行なっている国々の状況や、対象となる家庭の所得水準などを踏まえると、全額贈与と全額自己負担の中間的な負担構造が現実的かもしれません。例えばオフグリッドシステムのコストの一定割合及びメンテナンスコストの全額は利用者の自己負担とする一方で、その他のコストは低所得/無電化家庭向けの社会サービスの一環として政府支出(MDBs等の資金が一部これをバックアップ)がカバーする、という形でバランスを取ることも考えられます*9。論点3:誰がサービスを担うのか本件に限らず、途上国におけるプロジェクトの全てを政府や電力公社など公的セクターが担わなければならない必然性はありません。本件についても、利用者の選定、物品の調達、設置、料金の徴収、メンテナンス等、全てのプロセスを公的セクターが担うことも考えられますが、民間セクターとうまく連携する方がより効率的かつ持続可能となるはずです。当初は公的セクターが多くの役割を担う場合でも、中長期的に民間セクターの参入をいかに促していくか、という目線も重要です。例えば、家庭向けオフグリッドシステムのメンテナンスサービス(断線したケーブルを直す等)は必ずしも政府や電力公社が得意とするところでは無く、ローカルなエンジニアリング会社との連携が必要となるかもしれません。また、ベーシックなメンテナンス程度であれば、農村のエンジニア又は比較的手先の器用な*8) 例えば、キルギスの山間部の家庭においては、現時点でもディーゼル(小型ディーゼル発電機を用いて家電を利用している場合)や灯油に月十数ドルを支出している例も多く、それを代替しより多くのサービスを得ることができる、と考えると20ドルの支出は許容範囲との考え方もできる。*9) 例えば、太陽光パネルと蓄電池に係る費用は電力を供給する上でのインフラとして捉え、政府が支出する一方で、家電部分は私的サービスの消費と捉え、各家庭が負担するなど。農村の若者などでも一定のトレーニングを受ければ対応可能とも考えられます。この場合は、オフグリッドシステムの設置と合わせてキャパシティビルディングのためのトレーニングが必要となるかもしれません。また、利用者にオフグリッドシステムを届ける段階でも、公的セクターが最終的な利用者である家庭と直接契約をするのか、それとも利用者とのやりとりは民間事業者に委ね、公的セクターは事業者向けの低利のローン提供や補助金等で支援するのかなど様々なバリエーションが考えられます。論点4:サービス形態・料金の徴収等家庭にオフグリッドシステムを設置した後、当該オフグリッドシステムは誰が所有することになるのか、という論点もあります。利用者が一定期間(例:5年)オフグリッドシステムを利用又は一定金額を払い込んだ後は、当該システムの所有権は利用者に移転する形(この場合、所有権移転後のメンテナンス費用は利用者負担となることが多い)も考えられます。他方、利用者から毎月レンタル料を徴収するが、所有権は利用者に移転しない形(Fee For Service)も考えられます(この場合、メンテナンス費用は業者側が負担する形となる)。無電化の農村部において、誰がどのようにして利用者から料金を徴収するのか、という点も論点になります。設置時に一括で支払いを受けることができればそれに越したことはないですが、現実的には分割払いとなることが想定されます。徴収コストを下げる為に、農村のコミュニティと協力する、地元で活動するマイクロファイナンス機関やNGOとパートナーシップを組む、民間サービサーに委託するなどさまざまな形態が検討されています。また、最近では銀行口座を持たない者でも携帯電話を利用して送金が可能なモバイルバンキングが途上国で普及しており、これを料金徴収に活用することも一案として考えられます。悩ましいのが、利用者が料金を支払わない場合や、オフグリッドシステムを持ち逃げするような場合にどのように対処するのか、また、そのようなリスクをい33 ファイナンス 2019 Jan.連 載 ■ 海外ウォッチャー

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