ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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・ビジネスモデル上の論点技術面については、私はエンジニアではないので本稿では詳しく論じませんが、オフグリッドシステムに関するビジネスモデル上の論点について以下で簡単に取り上げます。読んでいただければわかるとおり、オフグリッドシステムの利用者から一定の金銭を徴収して初期投資コストやメンテナンスコストを回収する場合、本件はファイナンス面ではいわゆるリース取引に近似した形態となります。途上国の中でも物理的にアクセスの難しい地域の、比較的所得が低い家庭に対して物品(オフグリッドシステム)及びメンテナンスサービスを提供していく中で、いかにコストを下げて利用しやすいものとするか、また、不払い等のリスクを低減させてコストを回収するか、その為にはどのようなメカニズムが必要か、誰がどのような責任、リスク及び権利を分担するのか、といういわゆるBottom of the Pyramid向けのビジネスを政府や民間セクターを巻き込んでどのように実現するか、という難題の解決策が求められています。論点1:対象地域当然のことですが、オフグリッドソリューションを採用するにあたっては、送電線を引く場合とのコストベネフィットの比較衡量が必要となります。送電線を引く方がコストが安いのであれば、わざわざオフグリッドソリューションに頼る必要はありません。また、関連して、二重投資を防ぐため、オフグリッドシステムを導入する地域は少なくとも今後数年は送電線による電化が行われる見込みが無い地域を対象とすべきでしょう。この観点からは、オフグリッドによる電化を目指す場合であっても、国全体の中長期計画とうまくすり合わせを行なった上で対象を絞り込んでいく必要があります。また、以下に論じるように、利用者からの費用回収可能性を高めるためには比較的所得水準の高い地域を対象とすることが望ましいですが、他方で低所得者への対応という観点からは、比較的所得*5) 送電線を建設するコストよりもオフグリッドシステムを利用する方が経済合理的である場合にのみオフグリッドシステムが利用されるであろうことが想定される。*6) 家庭によっては、家電を一部削っても費用負担が小さいシステムを望む場合も想定されるため、サイズ及び構成の異なる複数パターンのシステムを提供することも考えうる。*7) 所得水準が低そうに見える途上国の農村部においても、出稼ぎに出ている親族からの海外送金等によって相応に現金収入がある家庭も存在する。ただし、正確なデータを把握することは困難であるケースも多い。水準の低い地域を対象とすべきとも考えられます。論点2:誰がなにを負担するか上記のオフグリッドシステムは、パイロットフェーズで約1セット(太陽光パネル、蓄電池、コントローラー、LEDランプ数個、扇風機、テレビ、冷蔵庫)で約1200ドル、より大規模に調達を行うと1セット1000ドル以下に抑えられると予想されています。また、家庭の所得水準やニーズにあわせて、家電を一部削り、より小さな太陽光パネル、蓄電池で稼働する相対的に安価なシステム(例:500ドル)を構築することも可能です。これに、輸送コスト(無電化地域は点在しており、また、交通のアクセスが困難な場合が多く、輸送コストが予想以上にかかる)、メンテナンスコスト(含む4年~5年後の蓄電池交換費用)がプラスされます。これらの費用を、誰がどの様に負担するのかが論点となります。*5*6そもそも無電化地域は途上国内でも相対的に所得水準が低い家庭が集まっている場合も多く、また、生活において一定程度の電気を利用できる、ということが文化的な生活を送る上で最低限必要な権利であると考える場合、社会政策上、これらを全て贈与ベースで各家庭に配布することも理論上は考えられます。一方で、贈与されたものは各家庭が身銭をきったものでないこともあり、利用者にオーナーシップの意識が生まれにくく、適切に管理・メンテナンスされないケースも多いこと(途中で故障した場合に打ち捨てられて終了するなど、持続可能性がない)、贈与ベースでは政府やドナーの資金にも限りがあることから、対象とできる家庭数が限られてくる、などの問題が生じます。他方、そもそも電気は利用者が消費する私的サービスであって、それに必要なコストは利用者が負担すべきである、との考え方もあり得ます。比較的所得のある地域においてはこのパターンも成り立つかも入れません*7。現に、送電線が届かない“無電化地域”であっても、自分でディーゼル発電機などを購入し、電気を利用している家庭も散見されます。金利負担などを考 ファイナンス 2019 Jan.32海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連 載 ■ 海外ウォッチャー

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