ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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のパネルが設置され、(1)照明器具(LEDライト)、(2)テレビ、(3)扇風機(アフガニスタン向けの場合)、(4)冷凍庫/冷蔵庫が利用可能となり、一般的な家庭の電力ニーズをかなりの範囲カバーできることになります。また、USBを介して携帯電話等の充電も可能です。蓄電池がセットになっているため、いったんフル充電されれば数日間は雨が続いても電気を利用可能です。蓄電池はリチウム蓄電池を利用しています。リチウム蓄電池は、他の蓄電池(鉛蓄電池など)と比べると初期投資コストは高いですが、その分寿命が長くライフサイクルコストで見ると優位であることに加え、軽いなど、オフグリッドシステムに望ましい性質を備えています。アフリカなどでは、世界銀行等のイニシアティブにより、既に照明器具、携帯電話の充電などに絞った比較的小さな家庭用オフグリッドシステムが普及し、多くの家庭で利用されています。それに比べると、現在行なっているパイロット用のシステムは、複数の家電が稼働できる相対的に大きいシステムなのが特徴です。このような大きなシステムは当然コストがかかるため、これまで途上国向け、とりわけ所得水準の低い無電化地域での活用は難しかったのですが、近年、太陽光パネルの価格が大きく低下してきていること、電気自動車の普及に引っ張られる形でリチウム蓄電池の価格も大幅に低下していること*3、などから、オフグリットシステム全体の価格も手ごろとなり、途上国向*3) IRENAによれば、太陽光発電設備のコストは2017年と2010年を比較すると約70%低下している。また、電気自動車向けバッテリーのコストも2016年と2010年を比較すると約70%低下している。*4) 例えば、パイロットで用いられているDCテレビ(32インチ)の消費電力は約25Wであるのに対し、市販されているACテレビ(32インチ)は比較的新しい型でも消費電力は70~100W程度。けの活用可能性が開けてきています。また、賛否の分かれるところですが、今回のパイロットでは、消費電力が少ないDC家電を活用しているのも特徴です。通常、電気は発電された段階ではDC(直流)ですが、遠く離れた発電所から各家庭へ送電するまでの送電ロスを減らすため、AC(交流)に変換されて家庭に運ばれ、最終的にAC/DCアダプターや内蔵された変換器等でDCに再度変換して家電等で消費されています。他方、オフグリッドシステムにおいては、発電する場所(屋根の上の太陽光パネル)と消費する場所(各家庭)がほぼ一体であり、送電ロスをほとんど考える必要がありません。そのため、太陽光パネルで発電した電気(DC)をそのまま利用するDC家電を利用することが有効です。この場合、DCをACに、ACを家電レベルで再度DCに変換する際に生じていたロスがなくなるため、AC対応家電と比較して、非常に小さな電力消費量で家電を動かすことができ、結果、限られた太陽光パネル、蓄電池のサイズでより多くの家電を利用することが可能になります*4。DC家電は日本ではあまり見かけませんが、車から電源を引くキャンプ用品などはDC家電が散見されます。DC家電の製造はAC家電と比較しても技術的には特に難しくないと言われているものの、世の中に一般的に流通している家電はAC家電であることから、少なくとも現時点では価格、入手可能性、多様性などの面はAC家電には劣ります。それでも太陽光パネル、蓄電池のサイズを抑えることが可能であるメリットも考えると、現時点でもオフグリッドシステム全体でみれば、DC家電の活用はコスト面でも相応に魅力的とも考えられます。他にも、オフグリッドシステムの魅力としては、再生可能エネルギーである太陽光発電を用いているので温暖化対策としても最適である点、送電線を引く場合は通常数年かかるのに比べて極めて短時間で電化を行うことができる点などがあげられます。(写真1:オフグリッドシステムのイメージ) ファイナンス 2019 Jan.30海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連 載 ■ 海外ウォッチャー

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