ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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○はじめに私は現在、アジア開発銀行(ADB)の西中央アジア局エネルギー課で勤務しており、ADBが融資する電力関係のプロジェクトに携わっております。大規模なインフラであるガス発電所、水力発電所、送電線などを建設するプロジェクトも担当していますが、今回は最近手がけている太陽光発電と蓄電池を用いたオフグリッドのパイロット(実証実験)を紹介したいと思います。我々が現在使っている電気は、一般的には大規模な発電所で発電され、送電線を経由してエンドユーザーへと届けられ、様々な電気機器・家電を動かすのに利用されています。日本においては、全国隅々まで送電線が整備され、基本的に電気へのアクセスに不自由を感じることはないと思います。他方、途上国においては、様々な理由からそもそも電気へ十分アクセスできない人、地域が多数存在します。IEAによれば、2016年時点でも世界全体で10億人、アジアだけを見ても4億人近い人々が電気へのアクセスがなしに暮らしています*1。これらの人々に電気を届けるのは重要な開発課題の一つです。Sustainable Development Goalsにおいても、“すべての人に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する”が目標の一つとして掲げられています。電気にアクセスできない地域が存在する要因は様々です。国内の発電キャパシティが不十分で国内需要を十分に満たすのが難しい場合もあれば、人口密度が希*1) IEA Energy Access Outlook 2017 (https://www.iea.org/publications/freepublications/publication/WEO2017SpecialReport_EnergyAccessOutlook.pdf)*2) Access to Electricity with New Off-Grid Solar Technology in Central Asia (https://www.adb.org/sites/default/les/project-document/201581/49412-001-tar.pdf)薄すぎる、高い山々に囲まれている、治安上の要因から送電線の建設のための工事が困難、などの要因から送電線を建設する投資コストがリターンに見合わず、結果として無電化となっている地域も多数あります。場所によりますが、山間部では一つの家庭を送電線に接続するために何千ドルもかかるケースもあります。また、送電線の建設には数年の時間を要します。そのような送電線が届いていない無電化地域に電気を届けるには、送電線(グリッド)に依存しない形で同様のサービスを提供する、オフグリッド・ソリューションが有効な場合があります。昨今の技術進歩で世の中には様々なオフグリッド・ソリューションが存在しますが、私が現在携わっている太陽光発電と蓄電池を活用した電化プロジェクトのパイロットもそのうちの一つです。○ 太陽光発電+蓄電池を活用した家庭 向けオフグリッドシステムのパイロット現在、ADBではTechnical Assistanceを活用し、アフガニスタン、キルギス共和国、タジキスタン、モンゴル、パキスタンを対象に、太陽光発電と蓄電池を活用した家庭向けのオフグリッド電化システムのパイロットを行なっています*2。・オフグリッドシステムの概要当該パイロットにより、各家庭に太陽光発電のためFOREIGN WATCHER海外ウォッチャー途上国の無電化地域を変える (かもしれない) オフグリッド・ソリューションアジア開発銀行 Finance Specialist 村口 和人29 ファイナンス 2019 Jan.連 載 ■ 海外ウォッチャー

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