ファイナンス 2019年1月号 Vol.54 No.10
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評者渡部 晶神田 眞人 著金融規制とコーポレート ガバナンスのフロンティア財経詳報社 2018年01月 定価1,700円(税抜)本書が中心に扱うのは、2015年から2017年であり、著者は、「人口減少・少子高齢化の進展、低成長・低金利の長期化、フィンテックの勃興、テロ資金の跋扈といった環境激変のもと、既存の金融業のビジネスモデル自体が抜本的な変容を迫られ、新環境への適用の本格的な試みが、当局側にも業界側にも見られ始めた頃であった。」と省みる。2018年11月30日・12月1日に開催された、G20ブエノスアイレスでの「首脳宣言―公正で持続可能な発展のためのコンセンサスの構築―」における金融についての1節で、「合意された国際基準に基づく,開かれた,強じんな金融システムは,持続可能な成長を支えるために極めて重要である。我々は,合意された金融規制改革の課題の完全,適時かつ整合的な実施及び最終化,及びそれらの影響の評価に引き続きコミットしている。」との冒頭文言は、本書を読めば、我が国が主導してきた命題の1つであることがよくわかる。著者の神田氏は、現在、主計局次長として、予算編成全体に加え、文教・科学技術予算などの大きな課題に取り組む。この分野の著作「超有識者達の時代認識と処方箋 強い文教、強い科学技術に向けてⅢ」は、本誌2018年5月号で紹介した。加えて、著者は、金融分野でも並行して活躍しており、本書はこの分野のものだ。特に、2016年11月17日から経済協力開発機構(OECD)のコーポレートガバナンス(以下「CG」という)委員会(Corporate Governance Committee)の議長に日本人として初めて選任された。現在、OECDの委員会で唯一の日本人議長である。この委員会は、グローバルスタンダードのG20/OECD CG原則を設定し、これに基づき、各国のCGを向上させるための活動を実施する。同原則は金融安定理事会(FSB)、世界銀行等でも、CG関係の審査基準とされている。本書の構成は、小林喜光・経済同友会代表幹事(三菱ケミカルホールディングス取締役会長)による「刊行によせて」、「序文」、「第1部 国際金融規制の進化―G20/G7のダイナミズム」、「第2部 対日金融審査」、「第3部 国際金融技術協力の推進」、「第4部 コーポレートガバナンス」、「第5部 対談」となっている。まず、小林氏は、「本書では、金融の国際交渉の実態、とりわけ、いかに我が国が国際交渉の場で主導権を握って、国益増進に有利な国際ルールの制定や、国際合意の形成に貢献してきたのかを、筆者の具体的経験を中心に、臨場感をもって示している」と指摘する。「序文」では、本書をサマライズした部分のほか、冒頭で、著者の世界情勢への緊張感あふれる洞察が示される。すなわち、「人類社会は歴史的岐路にある。情報技術革命を中核とした技術革新、グローバリゼーション、人口動態などが相互に関連しつつ、新たな発展の機会を生み出す一方で、社会構造の根幹を揺るがし、既存の秩序や制度を機能不全に陥れている」という。金融については、「民主主義同様、様々な深刻な課題を孕みつつも、人類が辿り着き、代替案も見当たらない資本主義において」、「社会経済の血管といった循環系器官ともいえる根幹インフラであり、人類社会の基本構造の変化の直撃を受けるとともに、その将来に大きな影響を与える」という。第1部では、小林氏が指摘するように、神田氏をはじめとする我が国の関係者が尽力した、金融規制の進化のあり方とそのプロセスへの我が国の大きなプレゼンスを知ることができる。第2部は、IMFによる金融セクター評価プログラム(FSAP)やFSBピアレビューが、日本側の事務方責任者を務めた著者により解説される。第3部は、経済外交の金融部門での金字塔とされる、ミャンマーのヤンゴン証券取引所の創設などが紹介される。第4部は、構造改革の大きな成功例とされるこの問題について、著者の国際的な活躍とともにそのエッセンスが紹介されている。第5部の国内外の超有識者との対談も読みごたえがある。ぜひ手に取っていただくことをお勧めしたい。27 ファイナンス 2019 Jan.ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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