ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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各地の話題3ターゲットは一流料理人日頃から食べているもの、目にするものを地域住民に宝と認識してもらうには、外部からの評価が不可欠です。付加価値を上げるため、行政が食材のブランド化に取り組むことは珍しくはありません。しかし、ブランド化だけで満足し、肝心の販路拡大が伴わなければ、所得の向上に繋がることはありません。いすみ市は販路を一流料理人に求めました。そこには、品質に抜群の自信があるいすみの食材を一流料理人に認知・使用してもらうこと自体が評価になる、ブランドになるという戦略があります。そこでいすみ市は、ぐるなび共催の若手料理人コンテストRED U‐35に勝ち残った若手料理人とその指導者が集う組織「CLUB RED」に協賛することで、一流料理人と知り合う機会を得たのです。一流料理人は、そのお客様を満足させるため、常に最上の食材を探し求めています。いすみ市はそこに着目し、行政自身が地域商社として、市役所内に生産戦略班、販売戦略班を設置し、時には市長自らも先頭に立ち、売込みを図りました。4行政の信用力をフル活用行政には信用力があります。いすみ市は、ここぞという場面では市長自らが出向き、一流料理人に直接プレゼンを行いました。その結果、いすみの食材に触れ、その品質を高く評価してくれた多くの一流料理人がいすみの食材を扱ってくれるようになりました。更には、一流料理人が扱っていることがお墨付きとなり、ますます引き合いは増えました。美食の街の取組を始めた翌年には、イセエビやサザエの浜値は2割上昇し、マダコに至っては2倍になりました。いすみの食材を扱うようになった一流料理人は、食材のストーリーを確認するためいすみ市を積極的に訪れてくれますが、これは生産者にまたとない機会となっています。自分が生産したものが認められ、店で使いたいと言ってもらえるのだからこれは励みになります。また、美食の街づくりを通して、イオンや良品計画といった流通大手にいすみ市が推進する有機無農薬の米やブルーベリーなどの農作物が目に留まり、昨年度から新たに取引が始まりました。新たな経済の流れができつつあります。こうして、いすみの食材は着々とその販路を広げ、価格も上がり、生産者の収益、意欲の向上に繋がっており、新たな設備投資の動きも出てきています。5税収で見る成果平成29年度のいすみ市税収は、人口減少に歯止めが掛からない中、前年度より45百万円増加しました。今後、詳細な分析が必要ですが、いすみ市では美食の取組以外にも移住・定住の取組やロケ誘致など低コストで地域経済循環を拡大させる様々な施策を行ってお写真3  杉本シェフによるいすみ豚のローストは大人気(写真:いすみ市)写真2 シェフと生産者が繋がるいすみRED(写真:いすみ市) ファイナンス 2018 Dec.75連 載 ■ 各地の話題

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