ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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私の週末料理日記その2811月△日日曜日新々先日出張に出かけた。晩に痛飲して、早々に出来上がって、9時前にホテルに引き揚げて倒れこむように寝たのはいいのだが、深夜尿意を催して目覚め、今度は寝付けなくなってしまった。時計を見るとまだ2時前なのだが、どういうわけか全然眠気がこない。仕方がないので、タブレットでネット配信の映画を観る。「仁義なき戦い 代理戦争」(深作欣二監督、東映)。何度も見た映画であるが、やはり傑作である。臆病なヤクザたちが虚勢をはりつつ腹の探り合いをしていくストーリー展開もいいし、何と言っても役者がいい。中でも不良少年役の渡瀬恒彦が実にはまっている。後年性格俳優として大成するのが、信じられないと言えば信じられないし、さもありなんと言えばさもありなんという感じである。また、煮え切らない組長役の加藤武も、小狡い親分役の金子信雄も芸達者としか言いようがない。ヤクザの大幹部役の成田三樹夫も、その役回りに合わせて、その強烈な個性をあえて抑制気味にしているあたりが見事である。また女優陣も金子信雄の女房の役の木村俊恵といい、渡瀬恒彦の母親役の荒木雅子といい上手いとしか言いようがないし、組幹部の情婦でクラブのママ役の山本英子も若いのに存在感がある。…結局朝6時までやくざ映画を観てしまった。日中あくびの連続であったことは言うまでもない。出張から戻って、昨日の土曜日、図書館で面白い本を見つけた。「昭和怪優伝」(鹿島茂著、中公文庫)。副題に「帰ってきた昭和脇役名画館」とある。著者とは年齢差があるせいか、この本に紹介されている12人の「怪優」のうちその出演した映画を見たことがあるのは、半数ほどにすぎないのだが、その「怪優」たちに対する評たるや「おっしゃるとおり。ぼくもそう言いたかったんだよな」という感じで、実に的確にしてツボを押さえている。例えば、渡瀬恒彦に対する評は、「鉄砲玉役者の美学」とある。なるほどうまいことを言うものだ。上述の「仁義なき戦い 代理戦争」でも鉄砲玉的な美学はいかんなく発揮されているし、「仁義なき戦い」シリーズの第一作でも、松方弘樹演ずる組の大幹部に激しく叱責されても、無視したり逆にすごんだりと、役回りこそやくざの中堅幹部だが、渡瀬の鉄砲玉的魅力たっぷりである。私の好きな俳優の一人である成田三樹夫の評は「ホモソーシャルな悪の貴公子」である。そして採り上げられている映画が、まず「兵隊やくざ」シリーズである。たしかに著者指摘の通り、当時デビュー2年目の成田演ずる青柳憲兵伍長は、「悪のエロティシズム」を存分に発揮して、人気絶頂の勝新太郎演ずる主役の大宮二等兵と全く互角に渡り合っている。さらに著者は、「柳生一族の陰謀」での烏丸少将役で白塗り公家装束で柳生一族をばたばたと斬り伏せる成田の演技を激賞している。私もこの映画の中では、成田演ずる不気味な公家が一番印象に残っているだけに、著者の指摘は実に心憎い。今日は、午前中にスーパーでの食材買い出しとプールで高齢者に交じってのウォーキングを済ませ、昼に冷凍鰻のうな丼を食し、午後はベッドに寝転んで、昨晩に続いて本書を読みふけっている。怪優という名に最もふさわしいと私が勝手に思っている伊藤雄之助は、「抗いがたき過剰」と評されている。著者が言う「過剰」とは、オーバーアクトではなく、伊藤の場合どんな小さな役をどんなに控えめに演じても主役以上の存在感を発揮するということであり、全くおっしゃる通りである。天地茂は「横目な色いろ悪あく」。これまた言いえて妙ではないか。70 ファイナンス 2018 Dec.連 載 ■ 私の週末料理日記

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