ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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伴った説明責任(accountability)の履行・自ら主体的に考えて的確な結論を導き出す・本当に国民(関係当事者)の利益に適っているか(「国民目線」の導入)という視点を持つということではないでしょうか。加えて、グローバル化・国際化・情報化が進む環境下においては、以下の点に留意が必要になります。すなわち、「規則主義から原則主義へのパラダイムシフトが起きている」、「日本国民から見た倫理観だけでは十分でなく、国際的視点ないしは国際的な環境下での倫理観の保持・発揮が求められている」、「講じられた手続ないしは到達した結果に対して、透明性ある正当な手続(Due Process)の下でなされたものなのか、についての説明責任が求められている」といったものです。(4)倫理に終わりはない今後、「社会通念としての倫理観の高揚が予想されること」、「国際的な視点での倫理観について常に考慮する必要があること」、「公務員としての公的業務の遂行にとっての倫理観、公務員としての倫理観の意義について考えることが不可欠であること」、こうしたことを踏まえるならば、倫理には終わりはありません。一番困るのは、何か発生した場合、「それでは、今後、倫理観も高めます。」と倫理が逃げ口上として使われることです。倫理はプロフェッションに対する批判逃れの「駆け込み寺」であってはならないのです。(5)新たな視点での「職業倫理」教育・研修そこで、「職業倫理」を教育・研修するに当たっては、新たな視点が必要になってきます。すなわち、・「時点」から「継続」へ(常にブラッシュアップが必要)・「覚える」から「考える」へ・「国内」から「国際」へ・「過去」から「将来・未来」へ・「解がある」から「解がない」へ(グレーゾーンへの対応)といった視点が必要になるということです。そのためには、「最新の情報を踏まえて、倫理観の「感度」を磨く」、「日々発生する不祥事等を「対岸の火事」として等閑視せず、自身の業務ないし環境に置き換えて考察する習慣を身に付ける」、「日本の常識は世界の非常識、という視点を忘れない」、「社会が期待する倫理観は時代とともに変化することに留意する」といった姿勢が公務員に求められます。こうしたことを身に付けるための研修スタイルとしては、座学中心の研修から、ケーススタディ、ディスカッション形式といった参加型の研修にすべきです。日々の業務に対する誠実な姿勢こそが、公務員に対する倫理研修の原点であり、倫理上の最大のジレンマ、困難な課題は、関連企業等の誘惑や圧力等に屈することなく、公正かつ的確な判断及び業務を行うことができているかどうか、ということを常に自問自答することであるということを忘れないでください。8.おわりに職業倫理の原点は、自己の業務に関わる相手、国民の立場に立って、わが身を律することである、という視点を持ち続けることではないでしょうか。つまり、国民の信頼を確保するためにも、「疑わしきは避ける」という視点は、公共の利益(Public Interest)の保護を図る立場からも傾聴に値するものなのです。ご清聴ありがとうございました。講師略歴八田 進二(はった しんじ)青山学院大学名誉教授/大原大学院大学教授1949年愛知県出身。博士(プロフェッショナル会計学・青山学院大学)。慶應義塾大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了、慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。駿河台大学経済学部教授、青山学院大学経営学部教授、同大学大学院会計プロフェッション研究科教授を経て、青山学院大学名誉教授。2018年4月、大原大学院大学会計研究科教授。他に、日本監査研究学会会長・日本内部統制研究学会会長・会計大学院協会理事長・金融庁企業会計審議会委員(内部統制部会長)等を歴任。著書に「会計。道草、寄り道、回り道」、「会計のいま、監査のいま、そして内部統制のいま」、「公認会計士倫理読本」ほか多数。68 ファイナンス 2018 Dec.上級管理セミナー連 載 ■ セミナー

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