ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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7.公務員に求められる倫理こういった中で公務員はどういう姿勢で行動ないし対応していくことが求められるのでしょうか。冒頭に申し上げたように、私は「職業倫理」という科目を教えていますが、ここで言う職業というのはプロフェッショナルの業務のことです。プロであるがゆえに一般の人よりも高度な倫理観あるいは高いレベルの誠実性を具備しなければなりません。それはなぜでしょうか。(1)プロフェッション(専門職)の意味プロフェッション(専門職)というのはどういうことを指すのかと言えば、7つの要件を満たすことが必要です。1点目は専門知識があること、2点目は正式な教育課程を経てそのメンバーになって業務を担っていること、3点目は団体に入会する基準があること、4点目は倫理規程を持っていること、5点目は免許状もしくは特別の称号によりその地位が認められていること、6点目は行う業務に対して公共の利益が存すること、7点目は所属メンバーがその社会的責任を認識していること、以上の7つです。このように考えてみると、最も伝統的なプロフェッションは欧州では医師、弁護士、牧師です。日本では「士」という言葉が付く職業、税理士、公認会計士、司法書士等々あります。これらはプロフェッションと呼ばれてもそう大きな間違いはありません。私は公務員もこうしたプロフェッションとしての要件を満たしているのではないかと考えています。(2)職業倫理の「理論」「制度」「実践」そこで、プロフェッションである公務員に求められる職業倫理の枠組みを考えるに当たっては、職業倫理を・規範倫理学や論理学などの「理論としての職業倫理」・国家公務員倫理法などの「制度としての職業倫理」・職場でのOJTやケーススタディ、継続研修などの「実践としての職業倫理」の3つに分けてその相互の関連の中で考えていくことが大切だと考えます。職業倫理を理解するためには、この3つの間をぐるぐると巡っていき、必要があればそこに戻っていく必要があるのです。ア.理論としての職業倫理「理論としての職業倫理」について注意していただきたいのは、プロフェッショナリズム(専門職業意識)ということです。その職業を担ったものとして当然に持っていなければならない心意気、気概ないし矜持といったものです。少し細かく申し上げると、「各プロフェッションが保持すべき職業意識として、公共の利益を保護するために、独立的な職業専門家として、誠実性と高度な倫理観を備えて行動すること」です。プロフェッショナリズムに対峙するのが利益指向の営利主義に根差したコマーシャリズムですが、公務員の皆さんには、自分の地位など目先ばかり気にするコマーシャリズムとは違うプロフェッショナリズムを持っていただきたい。イ.制度としての職業倫理「制度としての職業倫理」は、皆さんよくご承知のように、国家公務員法、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程といったもので規定されている内容です。こういったものが制度としてあることを知るとともに、そこに盛られている趣旨等についても理解しておく必要があります。ウ.実践としての職業倫理最も大切なのは「実践としての職業倫理」だと考えています。公務員としての現場で得られた事例をもとに、個々人が自らの頭で実際に考え、ディスカッションを重ねることによって、職業倫理観を向上させることが重要です。具体的には、過去に見られた倫理違反事例から得られる教訓、及び、複数の倫理問題に対してどのような対応を講じることが最善なのかを、個々人が考えることが重要です。(3)今問われている職業的懐疑心この点に関してヒントになるのが会計監査人の監査の場合における「職業的懐疑心」、すなわち「疑う心(questioning mind)及び監査証拠の批判的評価」ということなのです。こういったことを踏まえて、公務員の職業的懐疑心というものを考えてみると、・前例踏襲主義に陥らない・裁量の幅のある業務の場合におけるエビデンスを ファイナンス 2018 Dec.67上級管理セミナー連 載 ■ セミナー

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