ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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・事業活動に関わる法令等の遵守、つまりコンプライアンスが適切に果たされていること・資産の保全が図られていることこれら4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスだという考え方を示しました。そして内部統制を構築し、それを運用していくための要素として6つのものを示しました。・統制環境・リスクの評価と対応・統制活動・情報と伝達・モニタリング(監視活動)・IT(情報技術)への対応の6つです。(2)内部統制の目的内部統制の4つの目的はいずれの事業体であっても落とせないものです。1点目、まずその組織が行う業務が有効かつ効率的に行われていること。まさに経営管理そのものです。2点目、そこで作られる報告諸表、とりわけ会計数値を伴う財務報告に信頼がなければならないということ。実はベースとなった米国の内部統制については、2013年に大幅に改定が行われました。改定後の米国では内部統制の目的は「業務目的」「報告目的」「遵守目的」の3つで捉えて理解すべきだ、となっています。つまり、会計数値だけが対象というわけではないということです。日本で最近問題になったデータの改ざんや文書の書き直し、これは絶対やってはいけないということなのです。3点目、いわゆるコンプライアンス、法令等を遵守せよ、ということです。4点目、これは私のたっての願いで盛り込まれたのですが、資産の保全という考えです。日本は知財立国、無形資産を数多く持っています。これをちゃんと守ることで国力を高めていく、そうしないと他国がどんどん特許を取ってしまいます。自ら作り出したノウハウ、こうしたものをきちんと守らなければならない、という意味で資産の保全を目的に入れてもらったのです。この4つの目的は、外すことができない目的であって、これ以外に目的があっても構わないのです。つまりその組織が健全に有効に業務を遂行していくため、もっとほかの目的を掲げても問題ありません。(3)内部統制の基本的要素では、そういう組織であるためには、どんな内部統制の要素が必要なのか、ということでここに6つの要素を掲げました。1点目、「統制環境」です。これは非常に抽象的な言葉ですが、簡単に言いますと、組織の気風を決定するトップの意識、考え方、姿勢、経営者の倫理観、こういったものです。内部統制の生命線であることから、他の基本的要素の基礎になるものです。巷で不祥事とか、上位レベルの人が責任を問われるケースでは、この統制環境と呼ばれる、経営者の姿勢、経営戦略、経営方針、つまり経営者の考え、ここに陰りがあった場合に不祥事が生じるのです。2点目、「リスクの評価と対応」です。事業を取り巻くリスクがどこにあって、それに対してどのように対応していくのか、ということです。これは経営にとって当たり前のことです。3点目、「統制活動」です。これは決めごとです。組織の中で権限と責任を明確化するか、あるいは組織図を書く、ということです。こういったことは、日本人は得意です。4点目、「情報と伝達」です。これはInformationとCommunicationという2つの要素を組み合わせています。これは正しい情報が適時適切に作成され、そして自由に上下の間でCommunicateされる、こういう状況が必要だということです。真実な情報が常に作成され、風通しが良い環境の中で、業務が行われているということです。日本で起こる不祥事は大体において内部統制上の問題が指摘されることが多いのですが、その原因は2つあり、1点目は統制環境、すなわち経営トップがおかしいという問題、それから2点目は情報が正しく作られていない、あるいは正しく作られていてもどこかで遮断されてしまうこと、すなわち、わざわざ現場で声を上げたけれども、途中で封印されてしまう、上司が部下に命令するが、それが下に伝わっていかない、こういう問題です。不祥事が発生した時の記者会見で、マスコミから ファイナンス 2018 Dec.65上級管理セミナー連 載 ■ セミナー

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