ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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or Explain」の考え方に立っています。これが声高に言われるようになったのは、営利企業の会計基準として、21世紀に入り世界に広がりつつある国際会計基準であり、そこでの理念が原則主義なのです。世界には190を超える国があって、全部一律のルールに従え、というのでは無理があります。それぞれの国が持っている法的な仕組みや細かい基準と全く相容れないものを直ちに適用せよ、というのは無理なので、例えば、途上国としては、まだそこまでの実力がないので、ここまでの取り決めは守ることができるが、そこから先についてはまだ猶予が欲しい、という説明をすればいいわけです。つまり、説明責任を果たせばよい、ということからこの原則主義と並んで重要なキーワードである「説明責任(Accountability)」もよく使われるようになりました。原則主義という考え方は大本に関わることしか書いていない、あとは各自がそれぞれの実態に合わせながら裁量の中でやっていけばいいということです。このように説明すると、かつて、国際会計基準に反対する学者らは「細かく決められた従来の会計基準があっても会社は正しい会計処理を採用していない。いわんや裁量の幅があって大本に関わることしか書いていないというのであれば、各社各様が自由に適用することで、却って、不正や粉飾がやりたい放題になる。」と批判しました。でも原則主義にはその前提があるのです。それは「大人社会の決め事」だということです。百まで言わなくても分かるでしょう、ということです。規則主義というのは私に言わせると「お子様レベル」の約束なのです。原則主義というのは大人の決め事です。大人というのは理性を持ち、知性があり、そして自ら判断できる。ということは、一定以上の専門知識と理論を身に付け、加えてそれなりの誠実性、倫理観がある、そういった人間をベースに原則主義を考えているということです。4.内部統制の最前線ガバナンスの中核となる内部統制について簡単にお話ししておきます。内部統制が声高に議論されるようになったのは2007年に金融商品取引法で、上場会社に対して、内部統制という自らの組織の内部管理体制を自分で評価してその結果を報告書に記載し、決算書を監査している監査法人に監査してもらいなさいという内部統制報告制度が始まったためです。これを受けて、日本でもこぞって内部統制の議論が始まったのです。金融庁は、内部統制の制度を構築するため、まずは内部統制の基本的な考え方を中心に基準作りを行うことが必要だとして、企業会計審議会内部統制部会を設置し、私が部会長を拝命しました。2005年から2年間、これらの問題に取り組み、2007年にその内容を公表するに至りましたが、当時は「組織の締め付けが厳しくなる、息苦しい環境が求められている」等々の批判を受けました。内部統制報告制度はもともと不特定多数の投資家を前提とした上場会社を対象にした取り決めでした。しかし、ガバナンスの議論が起きて以降、内部統制の議論はありとあらゆる組織体において必要だということで、その後関連法規がどんどん改正され、会社法や独立行政法人通則法、地方自治法などにも内部統制関連規定が盛り込まれるようになったのです。これはあくまで組織の自治の世界に任されているものですから、その責任者たる経営者の不正に対しては必ずしも100%機能するものではありません。しかし、トップの号令のもと、良い組織を目指した取り組みを進めていけば、おのずからその規制をトップも受けることになり、トップも高い内部統制感覚を持つようになるだろう、と私は信じています。2007年の基準書において、内部統制とは何か、という共通の土俵を提供すべく、おおまかな定義が示されました。これは、遡ること15年ほど前の1992年に米国で議論された内容をほとんど受け入れる形で採用したものです。しかし、15年ほど時間が経過していましたので、最新の動向の中でいくつか見直さなければならない点があり、また米国の企業社会と日本の企業社会とはずいぶん違うことも踏まえ、アップデートと国内対応を図りました。5.内部統制の定義、目的、基本的要素(1)内部統制の定義内部統制の定義については、・業務が有効かつ効率的に行われること・財務報告が信頼できるものとして担保されること64 ファイナンス 2018 Dec.連 載 ■ セミナー

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