ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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2.近時のガバナンス改革の議論巷では、ガバナンスという言葉をよく耳にします。最初はコーポレートガバナンスという言葉から始まりました。今では、コーポレート、つまり会社とか企業という言葉を取り払って、ただガバナンスという言葉を使っています。私が知る限り、日本では20世紀までは公文書にカタカナ文字を使ってはならないとされ、必ず日本語に置き換えていました。しかし、いつの頃からか、怒涛のようにカタカナ文字が氾濫するようになりました。ガバナンス、コンプライアンス、スチュワードシップ等々です。ガバナンスは「統治」とか「統制」と訳されますが、本来は「目的を定めて、そちらの方向に導いていく」という意味があるのです。組織や事業体がその与えられたミッションを違うことなく、本当にそちらの方向に向かって皆一丸となって業務を進めていく、その一連の流れをガバナンスというのです。そういうことであれば、上場企業だけではなくて、あらゆる組織・事業体に適用することができるのです。ガバナンス改革の議論は、最初は上場している営利企業を対象としたものでしたが、そうではなくなってきました。独立行政法人、国、地方自治体、これら全てが対象となり、こうしたところが健全な制度対応をすることが求められ、ガバナンスの議論が高まっていくようになったのです。ガバナンス改革のコアとなるところには「内部統制」、いわゆる内部管理体制があります。ガバナンスを集合の円で描くと、外せないヘソの部分が内部統制なのです。では内部統制について誰が対応するのかを考えるときに、内部統制の仕組みがちゃんとうまくいっているかどうかをチェックする番人が、例えば会社の場合では監査役とかあるいは非営利組織では監事であり、こういった人たちが非常に重要であると言われているのです。不祥事とか不正とか非効率とか不適切な行為が行われている場合には、組織がうまく機能していないのではないか、あるいは組織全体の意思疎通が図られていないのではないか、ということでガバナンスがうまくいっていないと批判を受ける。そこでガバナンスを見直すべきだという議論がつい最近、21世紀に入って世の中で起きてきてこれが一般にも浸透していったのです。これにはどんな背景があるかというと、安倍政権下において日本の経済や社会をもっと元気付けなければいけないということで、コーポレートガバナンス・コードが制定されました。これは上場会社向けの規律付けです。「活力ある会社となるために、このような対応をしてください。こんな取り組みをしてください。」ということです。3.国際化の中での原則主義でも受ける側からすると、組織の規模も歴史も違うのに一律の規制などできるわけがないと思うのが通例です。そこで、こうした規律付けを要求する場合の裏返しとして、いわゆる原則主義的な考え方が採用されました。国際標準的な考え方、グローバルスタンダードというものの適用に際して用いる理念はこの原則主義という考え方、Principles based、というものです。では、日本の一般的な規律はどうかというと、事細かに規則を定めるというスタンスです。ダメだと書いてあることは認められないが、そこに書いてないことは認められるということです。これは規則主義、Rules based、というものです。必ずしも日本の全ての組織がいつでも規則主義であったわけではありません。私は古い時代は、日本は原則主義であったと考えています。かつては、一を聞いて百を知る、あるいは、阿吽の呼吸とか以心伝心ということで、あまり言わなくても皆が同じように理解をし、問題を起こさなかった。逆に、今の方が規則主義に近づいているのではないかとさえ思われます。この原則主義ですが、言葉を変えて言うなら、「このルールは守ってください。けれども、守ることがかえって問題を起こす、今の状態では守り切れない、ということなら、その理由を説明しなさい。」ということになります。「遵守せよ、さもなくば、説明せよ」(Comply or Explain)ということです。これは古き良きイギリスの考え方であると言われていますが、文化的な背景を考えると、日本に適した考え方だと思います。この原則主義的な考え方が様々なところで受け入れられるようになってきたのがこの数年間の動きです。日本のコーポレートガバナンス・コードも「Comply ファイナンス 2018 Dec.63上級管理セミナー連 載 ■ セミナー

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