ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
64/86

コラム 海外経済の潮流117大臣官房総合政策課 海外経済調査係 井山 まりな近年のECBの金融政策ECBは2015年より実施してきた国債を含む資産買入れ策(APP:Asset Purchase Programme)を、2018年12月末で終了する方針を決定した。そこで本稿では、近年のECBの金融政策について概観したい。ECBは中期的な物価安定の目標を、「消費者物価指数(HICP総合)が前年比2%未満かつその近辺」としている。2013年以降、消費者物価上昇率が目標値を下回り低下し続ける中(図表1)、ECBは2014年6月に政策金利の引下げを決定し、主要中銀の中で初めてマイナス金利を導入した*1(図表2)。その後、2014年9月にも追加利下げ*2を実施したが、エネルギー価格の大幅下落等もあり、消費者物価上昇率は低迷を続け、2014年12月には約5年ぶりのマイナスとなった。こうした中ECBは、2015年1月の政策理事会で、国債を含む大規模な資産買入れ策を導入することを決定し、同年3月から買入れが開始された(図表3)。購入対象はユーロ圏各国が発行する国債、EU機関債、政府機関債、ABS(資産担保証券)及びカバードボンドとし、合わせて毎月600億ユーロの買入れを実施するとした。さらにその後も消費者物価上昇率の低迷が続き、ECBは更なる政策金利の引下げ(2015年12月及び2016年3月*3)や資産買入れ策の拡充*4(月間買入れ額の増額、買入れ対象に社債を追加等)等を図った。2017年には、ユーロ圏の景気が緩やかな回復を見せ(図表4)、消費者物価上昇率も概ね1%台半ば程度まで上昇した。こうした中ECBは、2017年6月の政策理事会において、金利についてのフォワードガイダ*1) 2014年6月の政策理事会で、預金ファシリティ金利を10bp引下げ▲0.10%とすることが決定された(主要リファイナンス・オペ金利は0.15%に引下げ)。*2) 主要リファイナンス・オペ金利を10bp引下げ0.05%、預金ファシリティ金利を10bp引下げ▲0.20%とすることを決定。*3) 2015年12月は、預金ファシリティ金利のみ10bp引下げ▲0.30%とすることを決定。2016年3月には、主要リファイナンス・オペ金利を5bp引下げ0.00%、預金ファシリティ金利を10bp引下げ▲0.40%とし、現在(2018年11月時点)までこの水準で据え置かれている。*4) 2016年3月の政策理事会で、同年4月以降の月間買入れ額を200億ユーロ増額し毎月800億ユーロとすることや、購入対象に非金融機関発行の社債を追加することを決定。なお、2016年12月には、2017年4月以降の月間買入れ額を600億ユーロとすることを決定。*5) 従来の「政策金利を長期にわたり資産買入れ期間を十分に超えて現行水準またはそれ以下の水準に維持」から「それ以下の水準」を削除。*6) 再投資についてのフォワードガイダンスは、「償還債券の再投資は、資産買入れ終了後も長期にわたり必要な限り実施」としている。*7) 「政策金利を長期にわたり資産買入れ期間を十分に超えて現行水準に維持」から変更。ンスから追加利下げの可能性を示唆する文言を削除*5するとともに、同年10月には、資産買入れについても購入額の縮小を決定し、2018年1月以降の月間買入れ額を600億ユーロから300億ユーロに減額するとした。2018年に入ると消費者物価上昇率がさらに加速し、同年半ば以降は2%を超えて推移している。こうした中ECBは、2018年6月に、2018年10月以降の資産買入れ額を毎月150億ユーロに減額した上で、同年12月末に買入れを終了する方針を決定した。同時に、資産買入れ終了後も長期にわたり保有資産の再投資を続けるとのフォワードガイダンス*6を維持するとともに、金利については「政策金利は少なくとも2019年夏まで(at least through the summer of 2019)現行水準に維持する」との文言に変更し*7、引き続き緩和的な金融状況を保つ姿勢を示した。今後は利上げの具体的な開始時期や、資産買入れにより拡大したバランスシートの縮小を如何に行っていくかが注目点となると思われる。足元では、米中貿易摩擦やBrexitなど、ユーロ圏経済の不透明感が増しており、そうした中、ECBがどのような金融政策の運営を行っていくのか注視したい。(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。60 ファイナンス 2018 Dec.連 載 ■ 海外経済の潮流

元のページ  ../index.html#64

このブックを見る