ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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旅館が選ばれない理由・ハードルの一つとして、旅館のインターネット上での情報が少ないことが考えられる。インバウンド旅行者の約55%は宿を個人で手配しており、そのうちの約70%はインターネット経由である。しかし、大手宿泊予約サイトBooking.comの登録では、ホテルやホステル等に比べて旅館は少なく、すでに予約段階で、旅館がインバウンド旅行者の目に留まりにくいことが考えられる(図表6)。・また、コミュニケーションのハードルといった問題も存在する。旅行中に困ったことについての意識調査をみると、施設スタッフとのコミュニケーションが多く挙げられている(図表7)。・旅館経営者への意識調査では、外国語対応できるスタッフの採用を行っている旅館は約32%に留まっている(図表8)。予約段階で旅館の情報を入手できていても、コミュニケーションへ不安を感じるインバウンド旅行者は、宿泊する際の外国語対応があまり進んでいない旅館を敬遠する可能性も考えられる。図表6 インターネットの活用ホテル53旅館12その他34宿泊施設の予約サイト登録割合(%)個人55グループ・個人両方22その他23宿泊手配方法の割合(%)(注)2018年9月、Booking.comより筆者作成。ネット79電話4その他17個人手配の予約方法の割合(%)図表7 旅行中に困ったこと02040施設スタッフとのコミュニケーションがとれない無料公衆無線LAN環境多言語表示の少なさ・わかりにくさ(観光案内版・地図等)公共交通の利用クレジット/デビットカードの利用(%、2016年調査、単回答)図表8 旅館における対応32.341.822.46.145.836.355.772.021.921.921.921.9020406080100語学対応できるスタッフの採用言語対応した案内書類言語対応した地域案内をしている定期的に語学研修や勉強会を行い、反映している当てはまる当てはまらない無回答(%、2014年調査、単回答)旅館は消費を呼び起こせるか・現在こうした状況ではあるが、インバウンド旅行者への関心は高まりつつある。旅館経営者への意識調査では、インバウンド旅行者の集客にすでに取り組んでいる旅館は42.1%、今後取り組み意向のある旅館は29.6%あり、合計で70%以上が前向きな姿勢を見せている(図表9)。東京都の澤の屋はインバウンド旅行者が90%近くを占めるほどであり、集客に成功している例と言えるだろう(図表10)。・個々の取り組みのほか、地域の旅館が一体で宿泊予約サイトへ登録して存在感を高めたり、Wi-Fi環境推進のために企業と旅館組合が協定を締結したりと、旅館が行政や企業と連携する動きも生まれている。こうした取り組みによりハードル等が解消されることで、旅館における宿泊消費に限らず、それに付随するコト消費等、周辺産業も含めた消費の活性化へと繋がっていくことも期待したい。図表9 集客の取り組み意向積極的に取り組んでいる16.3取り組んでいる25.8あまり取り組んでいない24.0現状取り組んでいないが今後検討23.1何をすればいいのかわからないが取り組みたい6.5取り組む予定はない・必要はない4.3(%、2014年調査、単回答)図表10 集客の取り組み例場所内容実績東京都澤の屋Facebookで英語も使って情報発信を行うほか、トリップアドバイザーに投稿されるレビューに対して館主が直接返信する等、積極的にコミュニケーションを図る。トリップアドバイザー「外国人に人気の旅館2017」5位獲得岐阜県山久Facebookでの情報発信は英語と日本語で行う。実際の宿泊客の写真を投稿することで宿に泊まることのイメージを想起。同9位獲得大分県山城屋YouTubeを駆使し、電車の乗り方や浴衣の着方、温泉の入浴方法等を英語や中国語でも解説。旅館の情報以外にも外国人が不安を感じるポイントについて情報発信を行う。同15位獲得(注)トリップアドバイザーホームページ、澤の屋ホームページ、山久ホームページ、山城屋ホームページより引用し筆者作成。(出典)観光庁「観光白書」「訪日外国人消費動向調査」「宿泊旅行統計調査」、日本政府観光局「訪日外客数の動向」、国土交通省「旅館ブランドに関する調査研究」、株式会社日本政策投資銀行・公益社団法人日本交通公社「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査」、総務省・観光庁「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査」、各社ホームページ (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2018 Dec.59コラム 経済トレンド 54連 載 ■ 経済トレンド

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