ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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コラム 経済トレンド54大臣官房総合政策課 調査員 杉山 渉/関 祥吾旅館業界とインバウンド旅行者本稿では、近年増加しているインバウンド旅行者が、国内の旅館業界に与える影響を考察した。インバウンド旅行者の増加と消費動向の変化・国内旅行者が頭打ちとなるなか、ビザの緩和や航空ネットワークの充実、格安航空会社の成長、円安等の効果、加えて東京オリンピックの開催が決定したことも追い風となり、2012年からインバウンド旅行者数は増加し始め、2017年では国内宿泊者数の15.6%(2012年では6.0%)を占めるまでに増加した(図表1)。・近年のインバウンド旅行者の消費額の推移をみると、2012年-2015年は爆買ブーム等により「買い物代」が大きく消費を押し上げてきた。しかし2016年になると爆買ブームも一服し、「宿泊費」が消費額の増加に最も寄与していることから、インバウンド旅行者の宿泊動向について着目していく(図表2)。図表1 国内宿泊者数の推移41,31842,9912,6317,96905001,0001,5002,0002,5003,000010,00020,00030,00040,00050,00060,000201220132014201520162017延べ宿泊者数(外国人)延べ宿泊者数(日本人)外国人旅行者数(右軸)(万人)(万人)図表2 消費額の対前年伸び率の寄与度▲515355575201220132014201520162017宿泊費飲食費交通費買い物代その他前年伸び率(Pt)0インバウンド旅行者が選ぶ宿泊施設・インバウンド旅行者への宿泊施設に係る意識調査によると、旅行者の71%が旅館での宿泊を希望している(図表3)。また実際に旅館を利用したインバウンド旅行者への意識調査によると、旅館を選択した理由として「和室や日本式建築」、「温泉」、「日本料理」等、日本特有の文化体験が挙げられている(図表4)。・「買い物」等のモノ消費ニーズが落ち着き始めた一方で、このようにコト消費ニーズが高まりを見せていることが、旅館への宿泊を希望するインバウンド旅行者が増加している背景の一つのようだ。・しかし実際は、インバウンド旅行者の多くはホテル宿泊者であり、2017年における旅館宿泊者数はホテル宿泊者数の8分の1程度に留まっていることからも、旅館に宿泊する際には何らかのハードル等が存在していると考えられる(図表5)。図表3 希望する宿泊施設020406080その他ユースホステルゲストハウス廉価ホテル高級ホテル旅館(%、2017年調査、複数回答)図表4 旅館を選択した理由0204060この地域に宿泊したかったため日本文化全般を体験したかったため日本料理が食べたかったため温泉に入りたかったため和室や日本式建築等に興味があったため(%、2014年調査、複数回答)図表5 延べ宿泊者数の推移02,0004,0006,0008,0002011201220132014201520162017旅館ホテルその他(万人)58 ファイナンス 2018 Dec.連 載 ■ 経済トレンド

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