ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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わが愛すべき80年代映画論(第十六回)文章:かつおプレデター<DTSエディション>DVD発売中 ¥1,419+税20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン※(C)2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.監督:ジョン・マクティアナン出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、カール・ウェザース、ジェシー・ベンチュラ『プレデター』(原題:Predator)1987年最終15ラウンド。親友アポロを葬ったソビエト連邦最強のアマチュア・ボクサー、イワン・ドラゴを見事なKOで打ち負かしたロッキー・バルボア。その熱いファイトは頑ななソ連の観客のハートをキャッチするにとどまらず、ゴルバチョフ書記長(風の人)までもが思わず椅子から立ち上がり、拍手をしてしまった。もはやロッキー・バルボアを倒せるのは宇宙から来た怪物くらいしかいないのではないか…。そんなハリウッド映画人の冗談がそのまま映画の企画になってしまった本作。だがしかし、主演にシュワルツェネッガー*1を起用したことで、その後の残念な続編群*2とは一線を画した最大級の極上エンターテインメントとして完成されているのである。ストーリーは、元グリーンベレーのダッチ・シェイファー少佐(アーノルド・シュワルツェネッガー)率いる傭兵部隊が、元戦友でCIAに勤務するディロン(カール・ウェザース)の依頼で、南米のジャングルに大臣救出ミッションに向かい、その帰路で出会った宇宙怪物に一人一人殺されていくが、最後に残ったシュワルツェネッガーが逆にボコボコにする、というものである。まず冒頭、南米の基地に到着したダッチと、待ち受けていたディロンがバチーン!と腕相撲型の握手をする。両者の腕に無駄にアップをかますカメラ。シュワルツェネッガーは言うに及ばず、『ロッキー3』以降すっかり仕上がったアポロ・クリード役、カール・ウェザース、2人の上腕二頭筋の盛り上がりに、もはやこの後出てくる宇宙人が早々に気の毒になってしまう有様。そしてジャングルに赴くと、さっそくゲリラの本拠地を見つける傭兵部隊。そこからがすごい。人質の存在を確認するや否や、マシンガン、ミニガン、グレネードランチャーの雨あられ。人質…。一通り波状攻撃が終わったところで、傭兵の一人が偵察に行き、ダッチ隊長に報告。「人質は全員死んでいました。」そりゃそうである。しかしここからが本編。帰路に就く傭兵部隊が、光学迷彩のように透明なカモフラージュをした「何者か」に次々と*1) DVD表紙画像参照*2) 『プレデター2』(1991年)、『エイリアンvsプレデター』(2004年)などであるが、シュワルツェネッガーが出ていない時点で観る価値はない。2010年の『プレデターズ』に至っては、これを観る時間があれば『ドラえもんズ』でも観た方がましである。*3) 『ダイ・ハード』(1988年アメリカ)惨殺されていく。しかし部隊のタフガイたちも半端ではない。透明な相手にきっちり銃撃を返し、「何者か」が緑色の血を流しているのを発見する。一人がつぶやく。「血が出るのなら、殺せるはずだ。」およそ生きとし生ける全てのものはぶち殺せるという、動物ピラミッドの頂点に君臨することを自負してやまないその自信。いや、むしろお前らがプレデター(=捕食者)でいいよ、と思わずにはいられない。そうこうしているうちに映画開始53分。ついに透明な宇宙人が姿を現す。何やらカエル状のマスクをしてレゲエ歌手のようなドレッドヘアー。手足もあり指も5本。どんなものが出てくるのかと期待感を煽りに煽ってからの完全ヒト型宇宙人の登場に、観客のがっかり感は頂点に達する。しかしそこはシュワルツェネッガー。とにかく最後に勝てばいいのである。仲間が全員倒され、ついに宇宙人と1対1になるダッチ。ここで、観客は度肝を抜かれる。あろうことか宇宙人、その装甲を全て脱ぎ、肩についている全自動レーザーガンさえ捨てて、ダッチとの殴り合いを挑んでくるのである。すごい。圧倒される。こんな宇宙人にすら、80年代アクション映画のお約束をしっかり守らせる監督ジョン・マクティアナンの剛腕さには、シャッポーを脱ぐしかない。どんなに武器を使っても、最後は男と男。1対1の肉弾戦でしか決着はつかない。このアクション映画の素晴らしき伝統はしかし、皮肉にもジョン・マクレーンが背中に隠したベレッタM92Fでハンス・グルーバーを撃ち殺した瞬間*3、まさに同じ監督ジョン・マクティアナンの手によって終わりを告げるのである。しかしながら、ボディビルの最高峰、ミスターオリンピアを6回制覇したシュワルツェネッガーに素手で挑んだ宇宙人の雄姿は、永遠に僕らの心に刻まれたのである。この勇気があったからこそ、その後の続編群が生まれたといっても過言ではない。勝負は一回限りではない。名を捨てて実を取る。岐路に立つ財務官僚に観てほしい一作であることは言うまでもない。 ファイナンス 2018 Dec.51わが愛すべき80年代映画論連 載 ■ わが愛すべき80年代映画論

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