ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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評者渡部 晶牧野 洋 著福岡はすごいイースト・プレス 2018年6月 定価861円(税抜)福岡県を中心とするブロック紙・西日本新聞2018年11月14日付朝刊に、「なぜか「福岡本」ブーム」との記事が掲載された。中見出しに、「自己批評性なき愛郷心ゆえ? 縮みゆく社会の最後のとりで?」とある。本書も、その中で紹介されている1冊である。先行した「福岡市が地方最強の都市になった理由」(木下斉著 2018年2月)は、福岡市が発展したポイントを「都市経営的な視点」からその要素を抽出してたくみに読み解く(参考:拙稿「読書の時間」「月刊コロンブス2018年6月号」(東方通信社)掲載)。一方、本書は、カリフォルニア(2008年~2013年在住)から福岡市(2013年~2016年在住)に妻子と移り住んだ元日経新聞編集委員(2007年に独立)で、ジャーナリズム(「官報複合体」(講談社))やドラッカー(「知の巨人 ドラッカー自伝」(日経ビジネス人文庫))などに関する著作・翻訳もあるジャーナリスト兼翻訳家の牧野洋氏が、その生活実感を踏まえて福岡(都市圏)の今を生き生きと描いた。著者が必ずしもつけるものではないと思うが、「おわりに」で告白しているように、「福岡に対する思い入れはもともと強かった」ということが、本の題名の「福岡はすごい」に熱く表れていると感じる。また、著者は、「かねて『福岡はカリフォルニアと似ている』という問題意識を持っていた」という。本書はまさにその切り口で書かれた。本書の構成は、「第一章 すごい福岡とすごいアメリカ西海岸」、「第二章 住みやすさがすごい―人口増加率日本一の秘密」、「第三章 起業家がすごい―日本のシリコンバレー」、「第四章 イノベーションがすごい―有機ELとバイオ」、「第五章 都市戦略がすごい―「日本のシアトル」を目指す」、「第六章 多様化がすごい―「人種のるつぼ」の可能性」、「第七章 エンターテイメントがすごい―音楽・映像の拠点」である。最初の第一章で、著者は、「福岡が数十年前のアメリカ西海岸に相当する」と断じ、「アメリカ経済を西海岸が救ったように、「日本の西海岸」福岡が、日本経済を救うのではないか」との大胆な仮説を立てる。アメリカ西海岸(シリコンバレー、シアトル)から、「GAFA」及びマイクロソフトという企業群が生まれ育ったことからの連想だ。福岡市は、「日本のシアトル」を、九州大学は「日本のスタンフォード」をめざし、「妖怪ウォッチ」で知られるレベルファイブの日野晃博社長は、「福岡をゲームのハリウッドにしたい」と公言しているという。「巨大すぎる東京ではなく、コンパクトシティの福岡がロールモデルとなって日本全体を変えていく」というシナリオはとても魅力的だ。著者は、これでもかというぐらい、福岡の前向きな要素を並べている。ただ、課題としてさりげなくあげられているのは、やはり「人材」だ。起業を支える法律専門家や経営人材が、世界はおろか東京に比べても圧倒的に不足している。また、福岡市のシンクタンク・福岡アジア都市研究所が2017年3月にまとめた世界9都市(釜山、ヘルシンキ、ストックホルム、バルセロナ、ミュンヘン、メルボルン、バンクーバー、シアトル、福岡)比較では、「都市の成長」では最下位に甘んじる。ニッセイ基礎研究所の分析では、福岡県の男性は専業主婦期待が全国で最も高く、女性活躍に対して足を引っ張る懸念も指摘される。しかし、牧野氏も自覚的だし、最初に紹介した木下氏も指摘するが、「結局『ネアカな都市』が最後に勝つ」と思う。「よかよか」の精神である。2001年から2年間福岡市役所に出向して以来のご縁があるものとしては、福岡市は「ネアカ」にこれらの課題をかならずやきちんと克服していくものと信じたい。混沌として不透明感漂う世界の社会経済情勢の中、一筋の希望の光をみる。年末年始に一読を是非お勧めしたい。50 ファイナンス 2018 Dec.ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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