ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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の際と同じ椅子を使うよう促す。自分達の机の横には机が一つだけ置かれていて、それはデュ・シェイラ号の艦長のためのものであった。少ししてから、他の士官達については、交換式を執り行う部屋には同席出来ず、批准書の審査が終わり条約の交換が行われるときに呼ばれると知らされる。デュシェヌ=ド=ベルクールは、事前に式次第を念のため求めていたこと、そして、同席に同意があったように思えたからという一点で自分に同行していた士官達を、(他の場所に)移動させなければならなくなったことは遺憾であることを森山に告げる。老中の2人、日本の役人及びデュシェヌ=ド=ベルクールの後ろにいるすべての者たちは(着席せず)まだ立っていた。彼は決断する前に、デュ・シェイラ号のウジェヌ=イポリト=フェルマン・トリコ艦長と目を合わせたが、本件が悩ましい出来事であるにもかかわらず、同艦長は、極めて礼儀正しく諦めて、士官たちを日本側の礼儀の要請に従わせ、艦長自身はその場に残った。*34) 前掲外務省藏版・維新史學會編纂「幕末維新外交史料集成」第四巻476~477頁。すべてカタカナで書かれているがそれを漢字かな混じり文にすると以下の通り。なお、【 】は筆者が追加した部分である。「ヨーロッパと日本と風俗相違わざるかもし大事の儀あらば 先立って 守るべき礼を 悉く予て告げ知らせませば随分誰をも軽くせざる様に風俗を合わすべし それについて言えば私がエキセルレンシー【=閣下】御老中の御前へマゼステ【=陛下】フランス皇帝の戦船の士官を連れて参り候接待へその士官の人数・位【原文は「ラヰ」】等を一々分けて告げており候えぬ何れの壁に居るべきかと尋ね居り候えどもその元より誰も守るべき礼を予て知らすことはなしもし人々の居るべきところを指し見せる日本人はエキセルレンシー御老中の御前に連れて参るべき士官の人数【の】ことを取り扱【い】部屋に留まるべき間などを私に知らせ候えば随分その礼に任せて間違いなかるべしかつその時の間違いは御老中閣下もフランス士官も疑いなく心配なく一言にして守るべき礼を告げ知らせんことをこいねが【い】、また右に書きあげし通り何事にもマゼステフランス皇帝のことを取り捌くものの爵礼を軽んぜざるようにマゼステ日本の大君の高官人を尊び敬うべし左様なれば双方喜ぶべき事なり右の談判なすにはただエキセルレンシー貴方様の御心に適う心ありて致すと存ずべし 拝具謹言 一千八百五十九年九月十四日 フランス本書に当たる ケイユスタベドセンデベレクル」。実は、この小さな事件は、日本側の記録に残るデュシェヌ=ド=ベルクールの両老中宛の9月24日付書簡の中でも、批准書の交換式について感謝を述べつつ、注意喚起がなされている。ジラール神父が苦労して翻訳して書き上げたであろうカタカナ文を解読すると、○日欧間で風俗が違うので先に守るべき礼儀をすべて知らせてほしい○自分からは接待掛に、連れて行く士官の人数・階級を知らせどこにいるべきかなどを尋ねていたのに誰も教えてくれなかったが、教えてくれていればその礼に従っていたので間違いを犯さなかっただろう、守るべき礼を知らせてくれることをお願いする○日本側がフランス皇帝の代理人を軽く取り扱わないのと同様、自分たちも日本の将軍の高官人を尊ばなければならない、そうなれば双方にとって喜ぶべきことであるということが書かれている*34。日仏修好160周年を記念して、フランスで「ジャポニスム2018」の行事が行われていることは、本誌に吾郷俊樹氏が連載された「日仏友好160周年を迎えた文化交流」で詳細に述べられているが、これとは別に、日仏修好通商条約が署名されてちょうど160年となる本年10月9日(火)、木寺昌人駐仏日本国大使以下の大使館職員及びその他関係者が集まり、日仏修好通商条約原本・条約批准書を保管するフランス外務省外交史料館及びグロ男爵が眠るサンジェルマン=アン=レイ旧墓地を訪問した。まず、パリ市の北の郊外ラ=クールヌヴ市に位置するフランス外務省外交史料館では、エルヴェ・マグロ館長以下の出迎えを受け、日仏条約の原本(仏文、漢字かな混じり文、カタカナ文、蘭文)及び条約批准時に日本側から受け取った批准書原本を見せていただいた。保存状態は極めて良く、特に達筆の漢字かな混じり文や署名・花押には皆が感銘を受けた。また、1669年にオランダ人宣教師アルノルドゥス・モンタヌスが著した「東インド会社遣日使節紀行」のフランス語版、1919年に第一次世界大戦の対オーストリア講和条約として結ばれたサンジェルマン=アン=レイ条約の大正天皇の署名の入った日本からの批准書も見せていただいた。続いて、パリ市の西の郊外サンジェルマン=アン=レイ市に位置する旧墓地に移動し、同市のシルヴィ・アベール=デュピュイ第一副市長ほか市役所職員、私にグロ男爵の墓の場所を教えてくれたアラン・アンデルセン氏ほかの出迎えを受けた後、木寺大使による献(コラム)在仏日本国大使館が行った日仏修好160周年記念行事48 ファイナンス 2018 Dec.SPOT

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