ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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国際局調査課為替実査室 為替実査室長 日向 俊一/国際局調査課為替実査室 検査指導係長 岸田 洋介財務省は、平成30年9月26日に外国為替検査の検査指針となる外国為替検査ガイドライン(以下「検査ガイドライン」という。)を公表*1しました。本稿では、検査ガイドライン導入の背景やその内容を分かりやすく説明します。なお、文中、意見等にわたる部分は筆者の個人的見解であることを予めお断りしておきます。1検査ガイドライン策定の経緯と背景外国為替検査(以下「検査」という。)は、国際的な協力の下で行われる資産凍結等経済制裁措置の実効性を担保する観点から、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)に基づいて課された諸義務の遵守状況を確認するために実施されています。また、検査においては、金融活動作業部会(Financial Action Task Force。以下「FATF」という。)の勧告*2の着実な実施を図る観点から、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」という。)に掲げる諸義務の遵守状況についても確認しています。米国における同時多発テロ事件の発生を受けて、財務省では平成15年1月に検査事項及び検査方法等に関する実施細目をチェックリスト形式で定めた「外国為替検査マニュアル」(以下「検査マニュアル」という。)を制定し、外国為替業務を行う銀行等金融機関、資金移動業者及び両替業者などに対する検査を実施してきました。国際社会がマネー・ローンダリングやテロリストへの資金供与の脅威に直面する中、国際情勢を踏まえたリスクの変化等に機動的かつ実効的に対応する必要性が高まっており、国際的にも、FATF勧告では、金融機関等に対し自らが直面するリスクを適時・適切に特*1) 外国為替検査ガイドライン:https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/inspection/guideline_index.htm*2) FATF第4次勧告(仮訳):https://www.mof.go.jp/international_policy/convention/fatf/fatf-40_240216_1.pdf*3) 策定にあたり実施したパブリックコメントに寄せられた御意見及び御意見への考え方等:http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=395122813&Mode=2定・評価し、リスクに見合った低減措置を講じること、いわゆるリスクベース・アプロ―チ(以下「RBA」という。)の導入を求めています。これまで財務省は、関係法令の改正や新たな経済制裁措置の実施等に併せて検査マニュアルを随時改正してきました。しかし、変化するリスクへの的確な対応といった国際的な要請を踏まえると、ルールとチェックリストを中心とした従来の検査手法では不十分であり、外国為替取引等の分野における金融機関等による主体的かつ積極的なRBAに基づく対応を促進する必要があると認識しました。検査ガイドラインは、このような趣旨に基づき、検査マニュアルを発展的に改組し、金融機関等検査対象者に向けた検査指針として新たに策定されました*3。2検査ガイドラインの概要以下では、検査マニュアルとの相違点や新たな取組みに触れつつ、検査ガイドラインの概要を説明します。検査ガイドラインは、第1章(ガイドラインの概要):(1)ガイドライン策定の背景と目的、(2)ガイドラインの対象者、(3)検査実施にあたっての基本的考え方、(4)関係当局間の連携、第2章(外為検査の検査項目):具体的な検査項目(図表参照)及び第3章:外為法令等遵守のための参考資料、の3部構成となっています。検査マニュアルが財務省の検査従事職員向けの内部通達であったのに対し、検査ガイドラインは、検査対象者に向けた検査指針であり、検査対象者は関係法令や検査ガイドライン等の趣旨を踏まえた実質的対応を行うことが求められます。外国為替検査ガイドラインの 制定について ファイナンス 2018 Dec.37SPOT

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