ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
23/86

次に、税収については、消費税率の導入・引上げにもかかわらず、平成2年度(1990年度)とほぼ同水準であることにつき、バブル期に膨張した土地や株式の譲渡益や利子等に係る所得税収が剥落したことに加え、所得税や法人税の制度減税を重ねてきた要因も大きいと分析されている。地方交付税交付金等については、地方交付税が地域住民の受益を国民全体で負担する仕組みであることや、国の一般会計による補填部分は特例公債を財源として負担が将来世代に先送られることから、受益と負担の結びつきは地域に加えて、世代を超えても断ち切られている。このため、地方団体の財政規律が働きにくくなり、国の財政負担にも影響を与えていると評価されている。以上を踏まえ、建議では、税財政運営の要諦が国民の受益と負担の均衡を図ることにある一方、税財政運営は常に受益の拡大と負担の軽減・先送りを求めるフリーライダーの圧力に晒されることを指摘した上で、平成という時代は、税財政運営がこうした歪んだ圧力に抗いきれなかった時代と評価せざるを得ないと結論付けている。また、建議では、受益と負担の乖離が、国民が財政問題を自らの問題として受け止めることを困難にし、財政問題の解決をさらに遠のかせてしまっているおそれがあることにも言及している。3新たな時代を見据えて最後に、平成の次の新たな時代に向けた今後の財政運営についての考え方が示されている。まず、新たな時代においては、財政健全化どころか一段と財政を悪化させてしまった平成という時代における過ちを二度と繰り返すことがあってはならないと警鐘を鳴らしている。その上で、骨太2018における「新経済・財政再生計画」に財政健全化目標として盛り込まれた平成37年度(2025年度)のプライマリーバランスの黒字化は背水の陣であり、その確実な達成に向けて取組を進めなければならないと指摘されている。具体的には、同計画における社会保障関係費、社会保障関係費を除く一般歳出及び地方の一般財源総額についての今後3年間の歳出規律を遵守しながら、受益と負担の乖離に対処する努力を積み重ねる必要性が指摘されている。また、財政健全化に向けて国民の一層の理解を得る取組の重要性の観点から、エピソード等ではなくエビデンスに基づく政策立案を推進すべきこと、財政を巡る議論の状況を分かりやすく国民に提示していくべきこと、若年層への財政・租税教育を充実・強化すべきことが指摘されている。最後に、財政制度等審議会は将来世代を負担の先送りによってもたらされる悲劇から守る代理人でありたいとして、発信力の強化などを含め、自らの改革を辞さない覚悟が述べられている。政府としては、建議で示された認識を厳粛に受け止め、平成31年度予算編成はもとより、次の新たな時代の財政運営に取り組んでまいりたい。(財政制度等審議会財政制度分科会の審議風景) ファイナンス 2018 Dec.19財政制度等審議会「平成31年度予算の編成等に関する建議」について SPOT

元のページ  ../index.html#23

このブックを見る