ファイナンス 2018年12月号 Vol.54 No.9
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理財局国庫課長 廣光 俊昭/国庫課通貨企画調整室長 勝俣 陽司平成30年11月5日、独立行政法人造幣局(大阪市北区)において、伊佐財務大臣政務官出席の下、第147次製造貨幣大試験が行われた(執行官:伊佐財務大臣政務官*1)。1製造貨幣大試験の意義貨幣には、一般に流通している1円から500円までの通常貨幣と皇室の御慶事や国際的な行事などを記念して発行する記念貨幣があり、これらは全て「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」に基づいて、財務省の発注により造幣局が製造している。人々がこれらの貨幣を日常的な買い物などで日々安心して使うためには、貨幣に対する信頼の維持が不可欠である。貨幣の信頼維持のためには、一つ一つの貨幣の品質が一定していること、また、容易に偽造できないものであることが必要である。なぜなら、貨幣の品質にバラつきがあったり、容易に偽造ができるようであれば、日常の取引の度に本物かどうか確認しなければならないからである。このため、貨幣の製造を行っている造幣局においては、日々の製造工程の中で、貨幣の量りょう目め(重さのこと)のみならず品位・直径・厚さについて厳重なチェックを行っているが、これに加えて、発注者である財務省としても、貨幣に対する信頼維持の観点から、毎年1回、実施日の14日前までに製造された通常貨幣及び記念貨幣の量目が「製造貨幣大試験要領」*2(以下「大試験要領」)に定められた公差の範囲内にあるかどうかを検査している*3。これを製造貨幣大試験(以下「大試験」)と呼んでいる。*1) 製造貨幣大試験は、原則として財務大臣が執行官となって実施するが、今回は公務の都合により伊佐財務大臣政務官が執行官となった。*2) 財務省と造幣局は「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第4条第2項」に基づき、毎年度貨幣の製造に関する事務に係る契約を締結しており、その仕様書において、大試験要領を規定している。*3) 容易に偽造されないよう、貨幣には、たとえば角度を変えると数字が見えたり隠れたりする加工技術(潜像加工)など、様々な偽造防止技術が盛り込まれている。さらに、造幣局では偽造防止技術の一層の向上のための研究等も行っている。現在盛り込まれている技術の具体的内容については造幣局ホームページをご覧いただきたい。(https://www.mint.go.jp/operations/production/technology/technology_index.html)*4) 明治政府は、旧貨幣等と円との交換レートを定める布告も発布した。金札については一両=一円とし、旧貨幣については、慶長小判、享保小判、天保小判といった種類ごとに、金や銀の含有量(品位)を基準として個別に定めた。2大試験の歴史大試験の歴史は古く、大蔵省(現在の財務省)のもとで造幣寮(現在の造幣局)が操業を開始した翌年の明治5年(1872年)に初めて開催された。明治維新直後の当時、市中には徳川期に発行された量目・品位のまちまちな貨幣や地方の藩札、さらには外国貨幣などが流通し、国内における安定的な経済活動を阻害していたことから、これらを整理し、統一的な貨幣制度を整えることは明治新政府の喫緊の課題であった。このため、政府は、明治4年(1871年)に「新貨条例」を制定し、新通貨の呼称を「円」とすることや一円=金1.5グラムとすることを定めた*4。そして、この新たな貨幣に対する信頼を確保するため、造幣寮において、日々行われる製造貨幣の検査とは別に、貨幣が法定のとおりに製造されていることを公に示す場として「大試験」を行うこととした。第147次製造貨幣大試験について第72次 執行官:賀屋 興宣(かや おきのり)大蔵大臣 (昭和18年12月)※当時の大試験実施場所は正廳(せいちょう、現在の大会議室)。10 ファイナンス 2018 Dec.SPOT

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