ファイナンス 2018年11月号 Vol.54 No.8
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(5)ベンチャー進出が地域にもたらすものこのように地方でのいろいろな取り組みに従事していますが、では、そもそも「ベンチャーの進出は地域に何をもたらすのか?」ということに対する答えを次のようにまとめてみました。ベンチャー企業の人達の特性ですが、パソコンひとつで仕事が始まるとか、フットワーク・判断が早い、とかいろいろありますが、フットワークの軽さを活かした「地域の担い手」としての役割プラス「地域の価値創造に貢献する」という役割の2つの役割を持っているのがベンチャー企業の人たちなのだと思っています。ア.お祭りの事例に学ぶ「地域の担い手」に関して、地方に若者が来ると何が起こるのか、一番分かりやすいのが「お祭り」の事例です。こちらの写真を見ていただくとお分かりになるかと思いますが、サテライトオフィスの社員だけでこれだけの神輿の担ぎ手が集まるのです。この集落は20軒しかありませんが、子供神輿にもこんなに子供が集まるのです。この中にはデュアルスクールの子供もいますし、サテライトオフィスの社員の子供もいます。すごく賑わいが出てきています。大阪から来たウェブ制作の若者たちが地元の神社にホームページを奉納する、といった例もありました。田舎でサーフィンをやりたいというきっかけで来た人たちが、田舎を消費する側から田舎を支える、価値を創造する側に回ってきているように思います。イ.ビジネスの事例に学ぶ次に「ビジネス」に関する事例としては、地元の農業生産法人と組んでレストラン運営を手掛ける例や、IoTの技術を持っている会社が美波町にやって来て、IoTのセンサーを使った津波発生時の逃げ遅れ対策のソリューションの開発を進める例などがあります。これは南海トラフ大地震発生時の減災対策のため美波町の要請を受けた取り組みです。これらは「ベンチャー」と「地域が持っている魅力や課題」とが掛け算を起こしていることを意味しているのです。単に都会の人がやってきて、都会の人が自己実現する、というだけではなくて、地域の課題と融合することによって、地域のための地方創生が起こりうる、というのが美波町はじめベンチャー企業が集まるところで今起こっているのではないかと思います。この数年で美波町にはたくさんのベンチャー企業が集まるようになり、ある年には50年間減り続けていた社会人口が、わずか6人ではありましたが増加に転じる、といった珍現象も発生しました。最近ではレストラン、飲食店、美容院など若者向けの店が続々と増えています。人口わずか七千人、毎年百人の人口が減っている町に若い人向けの産業が次々に開店するという状況にもなってきており、過疎地でもできる集落再生モデルとして認知もされつつあるのかなと思っています。(6)美波モデルを他の自治体に販売今、あわえでは、過疎地でも地域振興が起こせる、ということを「美波モデル」として他の自治体に販売しています。具体的には、自治体職員向けの研修や地方にベンチャー企業を呼ぶコンサルティングサービスや起業家育成の研修といったものに取り組んでいます。北は東北から南は九州まで全国の自治体にサービスを提供しています。よく「地方創生で食っていけるのか(ビジネスとして成り立つのか)?」と聞かれますが、食っていけるのです。その地域だけで食っていこうとするとかなりハードルが高いですが、過疎化するとか、人口が減るとか、担い手がいなくなる、といった悩みは全国にあるので、その全国に対して答えが提供できるであれば十分ビジネスとして成り立つのではないかと考えています。日和佐八幡神社秋祭り56 ファイナンス 2018 Nov.連 載 ■ セミナー

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