ファイナンス 2018年11月号 Vol.54 No.8
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少し中長期の話になりますが、大学生を呼んで、地域で働くことを大学生のうちから学んでもらい、ゆくゆくはウミガメのように戻ってきてくれるようにということで、首都圏の大学生を中心に美波町でインターンを経験するということを行政と一緒に企画運営しています。単に田舎で働きましょう、では地域のファンにはなれないので、インターンに参加している間、例えば、津波からの避難を疑似体験できるアプリやIoTのセンサーを入れた美波町名物のカメのぬいぐるみを作ってもらうなどしてもらいました。独居老人がこのぬいぐるみを触ると、遠く離れた家族に、ぬいぐるみが触られた、という情報、つまりおじいちゃん・おばあちゃんは元気だよ、という情報が届くわけです。こうした地域課題解決に取り組ませることによって、その地域に対する愛着を持ってもらうことを狙いにしています。また、即戦力確保の観点からは、厚労省の職業訓練の民間委託を受けて、第二新卒のような人たちに地域の情報発信ができるスキル、動画や写真、文字やウェブといったスキルを学んでもらう職業訓練校といったものも開催しています。注目していただきたい点としては、この職業訓練校の定員と応募者数をみると、毎期定員を大きく上回る応募者数となっていることです。その属性を見ると、90%程度が首都圏を中心とした県外の若者で、70%近くが20~30代の女性となっています。つまり、地方が喉から手が出るほど欲しい人というのはちゃんと社会に存在しています。問題はお互いのニーズがマッチングできていないことであり、そのマッチング機能を担う組織が社会に必要だということです。あわえは今、そういうことを担っています。(3)「地域の魅力を楽しむ場所がない」あわえでは、地元の農業生産法人と一緒に地域食材のカタログになるような産直レストランを運営しています。地元の食材を食べて、かつその場で買える、という複合型のショップです。徳島のグルメフェスティバルで優勝したこともあります。また最近では首都圏の学生さんが地域での6次産業化とかマーケティングを学ぶことを目的としたインターンの受け入れも行っています。また、あわえとしては、地域の食材のブランド化をするレストランとか店舗のあり方をパッケージ化して他の自治体にも提供していきたいと考えています。このたび、美波町と政策金融公庫と地銀とあわえとが連携して、美波町に東京から有名なラーメン店を誘致しました。徳島のブランド地鶏である阿波尾鶏を使ったラーメン店です。まだオープンして1か月ぐらいですが、地元の新聞でも取り上げられました。あわえは、企業の地域進出支援、ブランディグ・広報支援の面でこの取り組みに参画させていただきました。来年には徳島市内に出店させ、2020年には徳島のブランド鶏を使ったラーメン店を東京に逆上陸させようと、多店舗展開を考えています。(4)「2拠点居住ができるのは男性だけ?」美波町には今ITオフィスやサテライトオフィスが集まってきている中で、次の課題が出てきました。「2拠点居住」という言葉を使って、私も行ったり来たりしていますが、女性の声として「2拠点居住なんてできるのは男性だけよ。」というのがあります。それはその通りだな、と。実はこれは私の妻の意見です。そこで「デュアルスクール」という新しい教育制度を全国初の試みとして、徳島県で取り組んでいます。「デュアルスクール」というのは、一人の学童(小、中学生)が移住なしに複数の学校に通うことができる制度です。こちらの新聞で紹介されているこの男の子は、普段は東京の学校に通っていますが、ちょうど今日から3週間、美波町の学校に通うことになっています。本来なら住民票を移さないと転校できませんが、住民票を移すことなく、都会と田舎、東京と美波町、お父さんやお母さんの2拠点居住やサテライトオフィスワークに合わせて複数の学校に通う、という仕組みを徳島県教育委員会とあわえとで進めています。私は「一人何役」をどうやって社会に広めていくかを活動の重要なテーマにしています。これからの時代、最も希少性が高いのが子供だと思います。子供を複数の地域がシェアするという考え方、こんな社会をどうやって作っていくかがこれから大事になってくるなと思うわけです。昨年夏、文科省から全国の教育委員会に対して、このデュアルスクールを広げていこう、という通知も出ていますので、デュアルスクールがもっともっと広がっていけばいいな、と思います。 ファイナンス 2018 Nov.55上級管理セミナー連 載 ■ セミナー

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