ファイナンス 2018年11月号 Vol.54 No.8
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お祭りの担い手になったり、消防団の団員になったり、学校で教育に参画したりと、いろいろな社会的な務めを担っています。彼は「田舎がこんなに忙しいとは思いませんでした。」と言います。都会の人は時間的には忙しいのですが、一日にやっていることの数はたいしたことはありません。でも田舎で生きていく上ではやらなければならないことが実にたくさんある。それは個人の遊びも当然あるのですが、地域社会を成り立たせるための活動がたくさんあって、その数は圧倒的に田舎の方が多いのです。それが嫌で都会に出ていく人もいるのですが、そういう役割をやって地元の人から感謝されて嬉しいという人もちゃんといる。私も今ではそれが人間らしい生き方だと思うのです。先にお話ししました「東京で何か物足りない。」と感じた思いは、私にとってはこれでした。東京では、私には経営者として、「稼ぐ」とか「雇用する」といった機能は求められていたものの、吉田基晴という個人に対して何か期待があったかというと、特段何かを感じることもなく生きていました。ただし、地方に行くと、私のような小さな会社の経営者でも社会の役に立つことができる、個人でも役に立つことができる、ということを実感できたことが一番収穫だったと思います。(3)「でも田舎にはビジネスがないでしょ?」次の質問は「でも田舎にはビジネスがないでしょ?」です。確かに若い時はそう思っていました。子供のころから「田舎にはいい仕事がない。」と聞かされて大人になったように思っています。ただ大人になって戻った時には景色が違っていました。ア.全部仕事に変えるこれは地元の漁師さんたちとの写真です。ここにいる赤シャツのおっちゃん、浜口さんといって、私も大変お世話になっている方ですが、親から譲り受けた仕事は造船業です。今65歳ぐらいと聞いていますが、今の仕事は造船の他に、釣具屋、漁師、干物作り、通販、廃船、また雨漏り対策の防水業を手掛けています。こうしていろいろな収入源をつくって生きているのです。浜口さんは「田舎は人が少ないので、やること、やれることがたくさんある。全部仕事に変えることができる。」とおっしゃいます。私は浜口さんのやり方は商売の王道を行っていると感じます。まず漁師向けの造船業をやった先で、同じ客に別の商品を売ろうと、釣具屋を始めています。トローリングとかのプロ向けの釣り具です。日本の釣り具は品質がいいということで、ネット通販を通じて日本国内のみならず世界に向けて販売しています。浜口さんは自分が釣ったこともない釣り具は売りたくない、と言って、あとから漁師を始めて、自分で釣ってみて釣れた釣り具を売るようにしているそうです。そして釣った魚は干物にします。また造船技術は防水技術であるということで、持っている技術を別のものに置き換えて、雨漏り対策の防水業という違う商売を始めています。同じ客に別のものを売る、同じ技術を別の用途に変える、という商売の王道を行っているのです。イ.株式会社あわえの設立:地域振興をビジネスに日本の過疎地が置かれている状況は少子化とか、学校がなくなるとか、産業が衰退するとか、いろいろありますが、人口減少で縮小化する日本において今後出てくる課題は日本各地の過疎地に端的に表れているのではないかと考えています。その観点で見たときに、これからの日本において地域の担い手の数は過疎地に限らず減少傾向にありますが、一方で社会が必要とする社会サービスも減ってはいくものの、急激には減らない。するとその間の需給ギャップが生じることになります。AIやロボテクスなどの技術がこのギャップを埋める存在だと思いますが、やはり人手が支えるという側面は非常に大きいだろうと思います。こういう局面が進むとすれば、人口減少が進む時代のこのギャップを埋める存在がきっと必要になる。地方自治体の職員の方々とお付き合いをしていますと、どう見てもリソース不足に陥っているな、と思うのです。地方自治体は地方創生というテーマのもと、いろいろな攻めをやらなければいけないけれども、町を維持することでさえ人手が足りなくて汲々としているのが実態です。だとすれば、地方自治体職員でなくてもこのギャップを埋めるための社会的機能が必要になる、と思いまして、2013年にあわえを設立しました。最 ファイナンス 2018 Nov.53上級管理セミナー連 載 ■ セミナー

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