ファイナンス 2018年11月号 Vol.54 No.8
55/84

そして、2012年5月に美波町に同社サテライトオフィスを設立し、翌年には本社も移転しました。同じ年にあわえを設立し、2016年に家族を連れて美波町に移住しました。私が東京で立ち上げたITベンチャーを過疎地に移したと聞くと、よく「なぜ?」と聞かれます。実は東京での企業経営に悩みがあったのです。1つ目の悩みは、東京で社員を全く採用できなかったことです。2つ目の悩みは、東京は好きなのですが「何か物足りない。」という思いがあったことです。会社を大きくするには優秀な人材が必要ですが、東京に会社を設立した時、若者がたくさんいる東京で採用に苦しむとは考えてもいませんでした。コストをかけて人材紹介とか募集広告、ヘッドハンティング等いろいろ取り組みましたが、全く成果がない。今になって振り返ると理由は分かるのです。東京という非常に大きなマーケットで大企業を含めて何万社もあって、その中で社員数は数名の名もないベンチャー企業がセキュリティのエンジニアを安い給料で雇いたい、という矛盾を抱えたままやっていたのです。転職希望者から見ると、「そんな会社になんか行くかよ、そもそも知らないし…」ということだったと思います。社員を採用できない状態が毎年続きました。そこで、これまでの戦略では勝てないと考えて、東京とは全く逆の場所で逆張りの勝負をしてみようと考えたのです。昔の私を含めて都会志向の若者というのがマジョリティと思いますが、マイノリティ、地方がいいのだ、という若者にとって魅力的な会社になろう、と戦略を変えました。そのように考えたとき、ちょうど転機があったのです。1つ目の転機は、全国トップの徳島県の光インターネット整備率です。どんな山奥の小さな村のおばあちゃんの家でも光インターネットが張り巡らされている、という状況があったことです。2つ目の転機は、東日本大震災以降、一部の若者の考え方が変わり始めたのではないかと私自身が感じ始めたことです。東京に住んでいる人でも一定数は、いつかは、あるいはきっかけがあれば、地方で暮らしてもいい、ということを示す最近のデータもあります。この変化をとらえて、サイファー・テックはインターネットに繋がっていればどこでも仕事ができるので、徳島のインターネット環境を活かして、かつ、地方で働いてみたいという人にとってのオフィスをつくろう、と考えました。こうして、2012年5月、美波町初のサテライトオフィスを設立しました。5. 美波町で「半X半IT」の働き方を提唱サイファー・テックと私にとっては、採用力をどう強化するかが目的でしたので、地方を目指したいエンジニアが選んでもらえる会社になろう、と考えまし美波町日和佐地区 ファイナンス 2018 Nov.51上級管理セミナー連 載 ■ セミナー

元のページ  ../index.html#55

このブックを見る